ここでは突き刺すような日差しは遮られ、人で溢れかえっていると言うのにひんやりとした空気が流れる。
すれ違う隙間も殆ど無く仕舞いにはお互いの体がぶつかったとしても
それが当たり前の光景であるためにいさかいも起きない。
大きな道の両側には店が連なっていてすべてに半円の軒先がついており、
それぞれ店の看板や名前が彫られたプレートを掲げていた。
店舗の大きさはどれも統一されてそれぞれの店主は手狭そうに商いをしているが
どの店にも客が必ずいる。
人気店ともなれば人も押し寄せて行列ができていたりした。
種類も多彩でパン屋、雑貨屋、宝石店、魚屋、果物屋、服屋など
とにかくそこに行けば必要なものはなんでも揃った。
軒先の上には更に高い天井があってそれが日の光を遮る役割を果たしている。
そのかわりと言わんばかりに店の明かりと、通路に設置されているランプの明かりが
そこでの太陽の役割を果たしていた。
ハディード通りと名付けられたその商店街の出口と入り口は
鉄の大きな扉になっている。
そのわりに子供が苦労せず片手で開閉できるほどの軽さであったが
頑丈で、大きな動物がぶつかってもびくともしないので
その鉄は至る所に使用され人々に重宝されていた。

「ルゥルゥ、イチゴのお菓子を2つ」

「あら、珍しい。どこかへデート?」

「まぁね」

小さな店の入り口で店主の女は白く細い手で手際よく注文された赤くて派手なお菓子を紙袋に詰めた。
ずっと奥の方には厨房があってそこでは数名の従業員によって並んでいる菓子が作られている。
店舗の幅こそは狭いものの店は縦長で不自由と言えばなにか物を持って
店内をすれ違うときに相手と接触するかしないかくらいである。
慣れてしまえばその店によって物や人の移動手段は様々である店は、
中二階を勝手にこしらえてそこを器用に行き来しているものもいるくらいだ。

「物騒になってるんだから、気をつけてね」

「わーかってるって」

青年は金をカウンターへ乗せると紙袋を受け取り人の波にのまれていく。
抱えた袋から甘いにおいがして食欲をそそったがそれを今食べるわけにはいかなかった。
これはアジトで待つ仲間への手土産である。
目移りしそうなくらい沢山の店が並んでいるが構わずに出口へ向かった。
出口の前には少し空間があってそこには待ち合わせをしている人や
地図を広げて出向く店へ目星をつけている旅人がまばらに立っている。
両開きの扉の左側を押し開けると太陽の光が差し込んでくる。
光に吸い込まれるように外へでるとからりとした空気と目を覆いたくなるようなまぶしさの日の光が広がった。
ハディード通りほどの賑わいではないものの人の往来が途切れる事はなく
人を乗せて歩く動物もちらほらと見てとれた。
子供達が楽しそうに追いかけっこをする隙間もあって比較的歩きやすい。

アーシファは足下をちょろちょろと走り回る子供達を上手くかわしながら
大通りを抜け、小道へと進んでいく。
入り組んだ小道を左へ右へと曲がって奥まった場所までたどり着くと
小さな酒場へ滑り込んだ。

「ただいま、ほら、土産を買ってきたよ。これでいいんだろ」

ころりとカウンターへ二つの菓子を置くと店の奥からきゃっきゃと声を上げながら
12、3歳くらいの少女が二人現れてピンクとも赤とも言いがたいカラフルな菓子を
宝石のように眺めた。

「うわああ…!ありがとう〜!」

「アーシファは、なんでも持って来てくれるね!」

「なんでもってわけじゃないよ」

「でもアーシファは優しいよ」

「うん、優しい!」

そう言って十分愛でて満足したのか二人は菓子を口いっぱいに頬張った。
美味しい美味しいとお互いに言い合っていると少女達が出て来たところから
今度は体のがっちりとしたむさくるしそうな男が現れる。
彼こそがこの店の店主であった。
娘達が幸せそうな顔をしているのを見てどんな軍隊も一睨みで追い返してしまいそうな
男の表情は緩みっぱなしである。

「首尾よくいったか」

「まあね」

アーシファが肩を竦めると男はまた普段通り険しい顔をする。

「手伝える事があったら言え」

「今のところは無いからいらない」

「そうか。帰りはたばこ屋へ行ってコカトリスを買って来い」

「はいはい。それじゃあ行ってきます」





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