23

部屋の中にはモニール姫一人きりで
王はアーシファと一緒に中庭へ向かったと言う。
なんだか気の抜けたタルジュだったがそれを見透かしたホルマトは
肘でタルジュの背中を小突く。
用があるのは確かにアーシファだけにではなかったのだ。

「あの、姫様」

「アーシファの事ね」

「えっ、ああ、あの、ええと…うう……はい…」

「俺は中庭行ってくるよ」

「ええ!?嘘!」

「どこまで甘える気」

「ご、ごめんなさい…」

じと、と軽蔑の色が混じった眼差しで見下ろされてぐうの音も出なかったので
タルジュは素直に頭を下げる。
ホルマトはタルジュの細い肩をポンと叩いてさっさと中庭へ向かった。
モニールと二人残されたタルジュはやや暫く何から話して良いか分からなかったが
モニールが切り出してくれたおかげで少しだけ気持ちが楽になる。

「先ほど、城に来ないかってアーシファに伝えたの」

「はい」

「お断りされてしまったわ。やり方がずるいからって。
世間を知らないと大変な目に遭うのだって、学習したの」

「ずるい?」

「貴方の気持ちを知っていて貴方に伝えさせた事よ」

一瞬、タルジュは息を飲んだ。
モニールは落ち着いた様子で淡々と続ける。

「大体、お願いするときはそちらから出向いてくるべきだって。怒られてしまったわ」

「す、すみません…」

「どうして貴方が謝るのタルジュ」

「アーシファに礼儀を教えなかった私の責任です…」

そんな失礼な事、とタルジュはもそもそ呟いたがモニールは首を横に振る。

「いいえ、貴方の責任は私に礼儀を教えなかったことよ。
困った侍女だわ。責任とってこれからも私の世話をして頂戴」

「えっ?」

「貴方を辞めさせる気なんてさらさら無いわ。安心なさい」

モニールはわざとらしく困ったような仕草をしたと思うと、すぐに
子供のようにウインクをした。
一瞬何が起こっているのかわからなくて目をぱちくりさせていたが
すべてお見通しの妹姫に心の底から従事していこうとタルジュは決意した。

「あ、ありがとうございます…!」

「それじゃあ私は中庭に行きますから、あとはお二人で話し合ってね」

「えっ」

そう言ってモニールが指さした先にはアーシファが不機嫌そうに立っている。
多分、ホルマトあたりにでも何か言われたのだろう。
そう顔に書いてあるから間違いない。
モニールがアーシファとすれ違い様に何か耳打ちしてアーシファが更に顔を顰めていたが
タルジュはなんとなくアーシファと視線を合わせにくいとすぐに俯いたので
そんな事知るよしも無い。

「アーシファ、その」

「俺が腹立ったのはタルジュに言わせたモニール姫とマフムードにだから。
でもちょっとはタルジュにも八つ当たりしたから、ごめん」

「わ、私も、思慮が足りなかったわごめんなさい」

「うん。本当に思慮不足だった」

「うう…ごめんってば…」

「あー、えーと、その、いや、そうじゃないな…」

「?」

アーシファの言葉の歯切れが悪い。
アーシファは言いにくそうにしながらええと、その、あの、を
様々なバリエーションで繰り返している。
あまりにも煮え切らないのでタルジュは何?とうんうん唸るアーシファへ身を乗り出した。

「俺も悪かった。タルジュの気持ち知ってたのにああいう態度とって」

「しっ!?知ってた!?」

「鈍感ぶるつもりないから言うけど、知ってた」

「え〜〜〜〜!!やだ、…やだ!うそ!」

タルジュは今まで見せたことが無いくらいに動揺して辺りをうろうろしたり
真っ赤な顔を手で覆いながらしゃがみ込んだりし始める。
今すぐにでも巨大な穴を掘って埋まりそうな勢いだ。
そのままのタルジュを眺めているのも悪くは無いと思ったが
不意に友達から言われた言葉が頭をよぎってまったアーシファは眉間に皺を寄せる。
そんな事言う必要なんてどこにも無いように思えるのだが友人はそれを是としないらしい。
面倒くさい。

「オレノホウガヒトメボレダッタシ」

「えっ!?………って言うかなんで棒読みなの?」

「ホルマトが言えって言うから」

「…なんだかロマンがないわ」

「そんなもんが欲しいならそう言うのをくれる男のとこに行けばいいだろ。行かせないけど」

「我が儘」

「タルジュに比べたら可愛いもんだ」








その砂漠の国には盗賊がおりました。
盗賊は義賊で困ってる人をよく助けました。
義賊は一人の少女に出会いました。
義賊と少女は協力して王様を助けました。
遠い未来に物語として二人が語られる事になるのはずっと遠い未来の先でした。

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