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事の詳細をホルマトに零したらホルマトは苦笑いを浮かべた。
しつこく誘ったのが機嫌を損ねてしまったようでタルジュは困惑し、
アーシファの友人に助けを求めたがホルマトは原因はそこではないと言う。
「ねえ、タルジュそれはひどいと思うよ…」
「どうして」
「どうしてって、タルジュならわかるでしょう。マフムードと、モニール姫にはわからなくても」
含む言い方をされてわからないと答えるほど鈍感では無い。
更に言えばマフムードとモニールから告げられた時は頭の上に大きな煉瓦が落ちて来た
衝撃を受けた程だ。
しかし、仕える王や姫に家来である自分が思いを寄せている人なので諦めてください
と言えるはずもなく、ただ言われた通りの事を1字1句間違えぬように
伝えるしかなかった。
「まぁ、アーシファもタルジュの立場を考えてないのなら相当お間抜けさんだけどね」
「ホルマト、私どうしたらいい?」
今にも泣き出しそうなタルジュは震える声で言った。
ホルマトは呆れたように溜息をついて一悶着あったであろう片割れの少女を見つめた。
これまで幾度と無自覚ではあれどアーシファに泣かされた女の子を見て来たが
不思議とタルジュは応援したくなった。
だからこのままアーシファが機嫌を損ねているのは見ていて気に入らないし
なにより女の子を泣かせると言うのは我慢ならなかった。
「どうしても姫に仕えたいのならアーシファを諦める。アーシファを諦められないのなら解雇覚悟で姫に伝える。まあ俺はもう一つ道があると思うんだけどね」
「?」
タルジュは首を傾げて答えを待った。
「姫に伝えたら姫が君の気持ちを汲んで、解雇もせずにアーシファとハッピーエンドにさせてくれる」
「えっ」
「マフムードの妹だよ?頭が良いんだから周りの空気だって読めるでしょう。
もしかしたらもう気がついているかもしれないし…。
まぁ、アーシファに盲目だったらこのパターンも可能性が低くなるけどね。
つまりタルジュ、君の言葉一つだよ。こればっかりは頑張れとしか言いようが無い。
俺は全面的に協力するからその時は」
「ならお願いがあるの」
「うん、何?」
「アーシファが王宮に向かっていると思うからついてきて欲しいの」
「了解しましたオヒメサマ」
ホルマトはそう言って恭しく深々とお辞儀をする。
今まで色々と話していてホルマトが多分、一番厳しいのだとわかった。
そして一番優しい。
だから多分アーシファもホルマトには頭が上がらないのだと思った。
言葉通りホルマトは王宮までちゃんとついてきてくれた。
門番が少し怪訝な顔をしたが、王の友人だと告げると一も二もなく背筋を伸ばして
胸を張り、敬礼を一つする。
そんな様子を見てホルマトはもう少し小綺麗な格好をしてくるべきだったろうかと
とんでもなく間の抜けた反省をしていた。
「アーシファいないな〜。もう姫のとこ行っちゃったのかな」
「…それは困る」
「いいねえそう言う切羽詰まった感じ」
「ホルマト、楽しんでるでしょう」
「親友の弱みはなかなか握れないからさ〜。正直言うと楽しい」
確かに、アーシファはどことなく隙を見せないと言うか
隠すというかそんなところがあるのは事実だ。
だから今度のファフリの件だってタルジュを助けると言っておきながら
手助けどころか殆ど自分一人で解決してしまおうとしていた。
ホルマトがホクホクと嬉しそうに浮き足立っている理由が手に取るようにわかる。
しかし、こんな事でアーシファの弱みになるかどうかが疑問だった。
王と妹姫の部屋につくとタルジュはすぐに扉を開けずに一つ深呼吸をした。
ノックを三回して、名乗りを上げると中からどうぞと返事が返ってくる。
声の主はモニール姫でドアノブに手をかけて押すといつもよりも重く感じる扉にタルジュはゆっくり体重をかけた。
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