18

その日から街には不穏な噂話があちこちから聞こえてくるようになった。
隣のおばさんから聞いたという者があれば街外れの病院の待合室で聞いたという者もある。
人々は声を潜め、辺りを伺いながらもその話しを誰かに聞かせなければならないと、
誰に言われたわけでもなく次々と広めていった。

「聞いたかい、あのファフリ様が王に毒を盛っているって話」

どこまでが本当でどこまでが尾ひれなのか、はたまたこの噂話自体がただの噂なのか。
街の人々には真実を確かめることなどできるわけがないので
あることないことまでが広がっていきやがてはそれが王宮への不平不満に繋がっていった。
ある日、街の大広間に兵士が沢山集まって、何かを準備していた。
街の人々が黙々と作業を続ける兵士に尋ねれば五月蠅い、寄るなと一喝される。
しぶしぶとその様子をうかがっている街の人に通りすがりの市民が何事かと尋ねる。
そうしているうちに大広間のまわりには人だかりが出来て、
兵士達がこしらえていたものの全容も見えてきた。

それは罪人を処刑する処刑台だったのだ。

頭に袋を被せた罪人が兵士に両脇を固められながら現れる。
一人は男、一人は女である。
二人の罪人は処刑台にたてられた丸太に縄でくくりつけられ
膝をついて地面に座らせられる。
すると処刑台の横に人を運ぶ豪華な装飾の籠が四人掛かりで担がれながら運ばれてきて、
ゆっくりと地面に下ろされた。
籠からは祭司のファフリが現れて街の人々が一層騒ぎ始めた。
ファフリの部下らしき口ひげを蓄えた細長く小さな男が籠の影から現れ、
ファフリに一礼して処刑台に上がると
持っていた紙を広げて声をたからかにあげて読み上げる。

「これより、罪人の公開処刑を行う。
罪状は大量殺人である。また国民を欺いて国政を行ったとして詐欺罪も摘要となり
よって、斬首の刑に処すものである」

男が言い終えるのを待っていた兵士は罪人に被せてあった袋を乱暴に剥ぎ取った。
罪人二人が顔のが公開された瞬間に民衆達から悲鳴に似たざわめきが一気にわき起こる。
罪人の二人は現国王とその妹姫のマフムードとモニールである。
二人は顔がドロドロに汚れていて、特にマフムードは拷問されたのか殴られた後があった。
モニールの美しくつややかだった髪はぼさぼさで見る影もない。
野次馬からは王が罪人とはどう言う事なのかと説明を求める声で持ちきりになった。
信じられないのも無理はない、マフムードは歴代のどの王よりも名君と噂されていたからだ。
罪状を読み上げた男が説明しようと息を吸ったら、ファフリが手を上げてそれを制止した。
男は腰を低くして籠の影に引っ込み今度はファフリが処刑台に上がると民衆は
ファフリの言葉を待っているかのようにしんと静まりかえった。

「以前、私は王は北の街の祭りを執り行うためにその地に赴いた事がある。
そこでは流行病が街を包んでいて人々の表情も暗かった。祭司の私は神に
病の沈静を心から祈った。だが私は不思議に思ったのだ。北の街の医療は
十分に発達している。なのにここまで病が街全体まで充満するだろうかと。
私は部下達に調べさせてその真相を突き止めた。病に冒されている王が
自分だけ死に向かっているのが気に入らないと、その道連れとして北の街の住人達にも自分と同じ苦しみを味合わせていたのだ。王は臣下に街の水路へ毒を流させ、
その水を飲んだ住民達は王の思惑通り次々に死に向かっていった。
私はこの事実を知った時とても驚いた。これがその証拠の、毒が入っていた小瓶である。この紋章は王にしか扱えぬものだ!しかと見よ!」

ファフリが懐から細かく豪華なサソリをかたどった装飾があしらわれた小瓶を
天高くかざすと民衆は一様に動揺を見せ始めた。
信じていた王がそのように冷酷で非道な事をするとは思えず、未だ
ファフリの言葉を信じて良いものかはかりかねているのだ。
しかし民衆達はファフリの言う事は辻褄があう、と次第に王への不信感を見せ始める。
やがて誰かが外道王と叫んだのをきっかけに一斉に怒号へと変わっていった。
ファフリはそれを悠々と眺めてぼろぼろの王を蔑んだ目で見下す。
王はただじっと地面を見つめ、投げつけられるゴミも避けずに黙って耐えていた。
モニール姫は涙を堪えているのか、これから処刑される恐怖に怯えているのか
その細く白い体が小刻みに震えている。
この儀式がなければ、ファフリは次ぎに進めないのだ。
王が『正規に』処刑され、次の王が選ばれた時、玉座へ腰を下ろすための大切な儀式だ。
その玉座は武力で奪ってはいけない。
あくまでも自然に、周りの人間に認められて王になるべきなのだ。
自分にはその器が十分に備わっていて、国を治める技量を持ち合わせ、
国民を愛し、国民を守る覚悟もすでに持っている。
だから、王になるにふさわしいのは自分なのだとファフリはずっとずっと
自分に言い聞かせてきたのだ。
こんな右も左もわからぬような子供ではない、自分なのだと。




「待ってくれ、俺はファフリ様が王を陥れる為に王に毒を盛って、
しかも北の街にもカモフラージュとして毒を盛ったのだと、噂に聞いたぞ」


だから、些細な障害などには脅かされてはいけないのだ。

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