15

ファフリにとって王を謀る事など造作も無かった。
ただしこの王とは現王ではなく先代の、マフムードの父親である。
先代の王は特に人が良く、外交にあっても力で押してくる諸国の王とは一歩下がるような存在で
特に臣下は苦労していたようだ。
そんな折り、ファフリは自分がいかに優れている人間であるかと言う事に気がつく。
祭司として国のナンバー2にまで登りつめ、王を支えて国内外の争いごとを鎮める。
ふとした時に隣で王座に座りへらへらと笑っている王を眺めて
何故自分は横に立ち、この男がその素晴らしい椅子に座っているのだろうと疑問に感じたのだった。

何故自分は、これほどの能力がありながら、この愚かな男の下にいるのだろう、と。

最近、自分の周りを汚い鼠がうろちょろと走り回っているのには気がついていたが
しかしあえてそれを放置し、状況がどう動くのかをじっくり傍観していた。
本音を言えば鼠一匹になにができるのかとタカをくくっていたのである。
だがそれもだんだんと雲行きが怪しくなっていき、とうとう見過ごせない状況にまで発展していた。
それを許したのは紛れもない自分で有り自分の傲り故の結果である。
鼠、と言う言葉をいくら小賢しくとも女性に使うのはどうかと思ったので控える。
それでは彼女をなんと呼んで嘲れば良いのか。

「鼠を使って何をこそこそとしている?」

「何の事でしょう」

タルジュはファフリの傍らに膝をつき、ファフリの足下を見つめたままきっぱりと言った。
ファフリも表情を変えずそれ以上鼠の事には触れずに話題を変えた。

「…王は最近随分とお加減がよろしいようだ」

「そうですね、おかげさまで回復に向かっているようです」

「医者は治る見込みが無いと言っていたがどうして回復しているのだろうな?」

「陛下のもともとお持ちになっている自然治癒力の力でしょう。
王ともあろうお方ですから。国の為に生きていかなければならないと言う強い思いが
回復に導いたのでは?」

「…そうか、それでは最近夜に不審者が城の中をうろついていると言う噂を耳にするが、お前は何か知っているか?」

「いいえ。今初めて耳にしました。陛下と姫には十分注意していただかねば」

「そうだな、それでは陛下と姫の周りに護衛の為の兵を配備しよう」

「宜しくお願いします」

終始タルジュは落ち着いた声で淡々と答えていた。
恐らくモニールあたりをつつけばもっと簡単に事実を突き止められるのだろうがあえてそれはしない。
モニールに詰め寄ったところでなんのおもしろみも無いからだ。
こう言う事は少し難航するくらいが楽しいのだ。
タルジュがこの若さで侍女頭を努めるゆえんはここにある。
タルジュは心の底から王と妹姫を信じ、尊敬して敬い、そして畏れている。
そんな王と妹姫に害をなす輩は敵だときっぱり切り捨てているのだ。
それが行動力と外見にあふれ出ているのはこの城でファフリが一番良く理解していた。

「そう言えば、何日か休みを貰っていたようだな」

「はい、父のところへ戻っておりました」

「お前の父も大変だろう」

「そうですね。でもなんとかやっておりますので」

「そうか、ああ、最近私の屋敷で新しい使用人を雇ったんだがな」

「?はい」

「確か、お前の父の屋敷に勤めていた…と言っていたかな。
名前は確か………クザハだったか」

思わず顔を上げたタルジュの表情がみるみるうちに変わっていく。
このあとこの少女が自分に対してなんと言ってくるのだろうかとか、
どう行動を起こすのだろうかと言う事を考えるとファフリは身のうちが震えるのだった。



[ 15/37 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -