13

薄暗いところだと何度来ても思う。
太陽の日は一日中差さないし、人通りも少ない。
寂しい雰囲気しか持ち合わせないこの場所へよりつく人間は大体
普通の人間では無かった。
家とも店とも言いがたい建物の入り口は扉が無く、地面まで届く長い、
暗い色の布を何枚か重ねたものをそれの代わりにしている。
布を避けて建物の中に入るといろんな物のにおいが混じっているにも関わらず
不快さを感じさせない。
日の光が入らないので一日中ちいさなランプがあちこちについていて
黄色い火の揺らめきが部屋に広がっていた。
細長い造りの間取りで四方の壁には棚がびっしりと備え付けられており
動物の骨や何かのホルマリン漬け、見た事も無い植物が所狭しと陳列されて
時々埃を被っているものもあった。
一番奥は小さなカウンターがあり顔の見えない男がにやにやと笑いながら立っている。

「キヒヒ、珍しいですねえ、旦那」

「これに毒が混じってると思うんだ。解毒剤を作れるか?」

「毒ゥ?どうして毒の混じった血など持っているんです?」

「出来ないのなら他を当たる」

「ああ、待って待って。やりますやりますよ、旦那の頼みならなんでも聞きます」

怪しい風貌の男はその容姿に似合わず甲高いでアーシファの持っていた血の入っている小瓶にすがった。
もさもさと伸びたままの髪を邪魔くさそうに払ったがすぐにもとの位置に戻るので
さして意味が無い。
左目に眼帯をしていてさらに視界が悪かろうにと不憫に思い
一度切ってやろうかと提案したことがあるが断固として拒否された。
男は普段見せない機敏な動きであちこち行き来して道具を揃えると小瓶から一滴だけ血を皿に乗せる。
なにかの薬品に混ぜたり、紙につけたりとしていたがやがてうなり声を上げた。

「これは時間がかかりますねえ」

「どのくらいかかる?」

「今日明日でできるものじゃありません一週間ください。なるべく早めに結果を出すようにしますから、もし一週間よりも早くできた時は使いをやりますんで」

「わかった。それで出来たらこれをスルブ、お前に打ってもらいたい人がいる」

「へえ。こんなところに来られるんです?」

「お前が来るんだよ」

「いいいいいいいいいいいいいいいいい」

「来い」

スルブが泣き声のような叫び声のような断末魔のようなとにかく訳の分からない声を上げて
ガクガクと震えだした。
スルブにとってこの家から出ると言うのは命をなげうつのと等しいくらいに
勇気がいるらしく落ち着き無くそこら辺をうろうろしている。
アーシファは動じずに短く一言だけ加えたがスルブは震えながらアーシファの手を取って
さすり始めたがアーシファは素っ気なくその手を払う。

「そんな、そんなひどいですよう…旦那…!」

「安心しろ、夜に出るし、相手は王だ」

「はあ?王?また旦那もわけのわからんものに首を突っ込んでいますねえ。
大体城にだって医者はいるでしょう」

先ほど怯えていたのが嘘のようにスルブはけろりとして呆れたように言った。

「当てにならないからお前を連れて行く」

「ふーん…………!?まさか、じゃあ、これは王の血で…!?あああああ!
なんと言うこと…!旦那!ちょっとだけ!ちょっとだけ飲んでいいですか!?
王の血なんて滅多に手に入りませんよお…!?」

スルブは興奮を抑えられないようで甲高い声できいきい叫ぶ。
呼吸も荒く、小さな血の入った瓶をなめ回すように眺めて恍惚とした様子で
アーシファに言った。
スルブが興奮するのは滅多に無い。
先ほどのように外へ出ろと言う客はなかなかいないし、
アーシファのようにもの珍しいものを持ってくる人間はいるが大体が
スルブの記憶の中にあるのであまり歓喜しない。
不思議な事にアーシファだけがスルブを喜ばせるような代物を発掘しては持ち込んでくるのでスルブは特にアーシファを得意先として丁寧に扱っている。
アーシファもそれをわかっているからこそスルブに無理を言うことができるのだった。

「一滴たりともお前の体内に入れたらお前の全身の血を抜いてムーナ川に沈める」

「ああ…そんな素敵な仕打ち…どこで覚えてきたんですか旦那……っとイエ、間違えました。ひどいです、しません。しませんから怖い顔しないで下さい」



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