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タルジュの話しをすべて鵜呑みにすればこれほどに大変な状況は無い。
ファフリが王をどうする気でいるのかは知れないが、
下手をすれば王は崩御してしまう恐れがある。
それを顧みずファフリが事を進めるのならば事実を知ってしまった手前、黙っているわけにはいかない。
特にアーシファにはそれを出来ない理由がある。

「その話が本当なら俺は城に行く。尚更に引けなくなった」

「これだけ巻き込んでおいて申し訳ないのだけれど、これ以上首をつっこまないで」

「申し訳ないと思うのならなんで喋るんだ」

「ごめんなさい」

「アーシファ、手を貸してやれ」

アーシファの父親は硬い表情のままアーシファを促すとアーシファは頷く。
タルジュは悲鳴のような声でマスター!と叫び何か言おうとしたがアーシファの父親が手を上げて素早く制止する。

「ジャウハラの男は女が泣きそうな顔をしている時は必ず助けるもんだってな、
昔から口をすっぱくして言われてきていてその精神が指の先まで染みこんでる。
それをしないやつはクズ扱いされるんだ」

「マスタァ」

タルジュは我慢していた涙腺が一気に崩壊するとぼろぼろと大粒の涙をこぼして顔をくしゃくしゃにする。
あやすように頭を優しく撫でてやると手で涙をぬぐい泣き止もうとする姿が少しいじらしくてちょっぴり可愛いとアーシファ思った。
彼女がこれまでどれほどの苦労をしてきたのかは計り知れないが
首飾りを妹姫から預かり、守ってきたその覚悟は並大抵では無いだろう。
国宝にあたるそれを命をかけて守ってきたのだ。

「だから泣くなって。俺は今から城に行って陛下の様子を見てくる」

「待って、私も行く」

「いいよ、まだ眠いだろ」

「これだけ泣いたら目が覚めちゃったわ」

ぬれたまつげをぱちくりさせるその姿もちょっぴり可愛いとアーシファは思った。
先ほど父親が言ったように女を泣かせるのは最低なやつのすることだが
泣いた女を見るのはそれほど悪くない、気が、する。


タルジュとアーシファは早速着替えて準備を整え、王が住まう王宮へ向かった。
夜も更けているので大通りに出ても人影は少なく、空高く月が地面を照らしていた。
まだ営業している店の軒先に差し込んである松明の火がめらめらと揺れて
月影とはまた違った影を作り出している。
泥酔して道ばたにだらしなく寝転がっている男や未だきゃらきゃらと甲高い笑い声をあげているおめでたい女を横目に二人は目的地を目指した。
王宮といえどこれほどに夜も更ければ明かりの数も少なく比較的侵入しやすい。
正々堂々と門から入っていくと思っていたタルジュは泥棒みたいな真似をどうしてするのかとアーシファを非難したがアーシファは呆れたようにタルジュへ溜息を吐く。

「昼間、ファフリ様が帰ってきたのを見たろ。あんたがのこのこと現れたら
たちどころに捕まって終わりだよ」

「まさか、王宮でそんな大それた事を…仮にも私、姫様の侍女頭なのよ。
皆私の事は知っているし、何より姫様が許すはずが無い」

「だから、その姫様に知られないように捕らえられるって言ってんの。
タルジュってなんて言うか考え方のツメが甘い」

真っ向から自分の意見を否定されていくらかムッとしたが彼の言う事も一理ある。
恐らく狡猾なファフリならそれぐらい簡単にやってのけるかもしれないが
何よりその狡猾なファフリの考え方をまともに会って話した事もなさそうな
アーシファの方が自分よりもよく分かっているのが気にくわなかった。

「よくわかるのね、ファフリの事」

「この手の人間はちゃんと自分の逃げ道を確保して物事を進めるんだよ。で、次はどっち」

分かれ道にさしかかったところでアーシファが指を指す廊下は先が暗くて良く見えず
昼間の豪華さが嘘のようだ。
よく知る廊下も今では不気味な幽霊屋敷のように静まりかえっている。
見張りの兵士達がすっかり油断しきって警護を疎かにしている証拠だ。
おかげで忍び込むのに苦労しなくて済むがこれでは侵入者がいた時にどうするつもりなのだろう。
現に自分達が侵入しているので非難することも出来ないが。
何度かタルジュに案内して貰って王の寝室へたどり着く。
王の寝室の隣は妹姫の部屋になっていて、中から1枚扉で行き来することが出来る。
まずは姫に事情を説明してから王へ謁見を賜ろうとしていたタルジュの
思惑に反し、アーシファは音に警戒しつつも堂々と王の扉を開けてしまう。
慌てて止めようとしたときには既にアーシファは王が眠っているベッドの傍らまで進み歩いていた。










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