タルジュと二人で市場を回って店の材料を調達して回る。
調達と言っても、種類、個数、配達して欲しい日時を告げて回るだけなので
実際には荷物など殆ど無い。
時々珍しい野菜や果物なんかを見つけた時に試しにいくつか購入してみて
料理して評判がよければ次回の注文へ回すと言ったくらいだ。
最初は母親がしていた仕事だったのだが小さい頃に
この市場に連れられてからはアーシファの役目となった。
おかげで交渉ごとがすっかり得意になったのでその点は母に感謝しなければならないところである。

「お父様だってこんなに上手に交渉できないわよ、アーシファすごいのね」

「じゃああんたのお父様はここで暫く修行するべきだな」

アーシファが持っているメモには取引先のリストが書かれていて次々にチェックがつけられていく。
一通りの店に回り終えるとメモをズボンのポケットに乱暴に突っ込んで仕事を終えた開放感からおおきくのびをした。
ただ同行していただけになってしまったタルジュはなんの役にも立たなかったが
色々ろ勉強する事はできた。
元々当てにされていなかった分、慌てずに第三者の視点から取引を眺められたのは
大きな収穫だ。

「なあ、あんたなんで匿ってほしいの?」

「言わなくちゃいけない?」

「普通は世話になってるんだからある程度の状況説明をしようとは思うもんじゃないのか?」

「おかみさんもマスターも何も聞かないでくれてるわよ?」

「なんだよ。無粋だって言いたいのか」

「あら、わかってくれた?」

「だから俺は関わりたくないんだ…」

大きく溜息を吐いて肩を落としたがタルジュは悪戯っぽく笑う。

「そんな事言ってもアーシファは助けてくれるわ」

「俺は聖者じゃあないんだからな」

「悪者でもないじゃない」

「もうこの話しはしない」

多分これ以上何を言ってもタルジュに言いくるめられてしまうのだろうと悟って
話しを切り上げる。
それだってもっと追求すれば聞き出せるかもしれないのにそうしないのは
やっぱりアーシファが優しいからなのだとタルジュは思った。
街中を歩いている今でさえ、タルジュがぶつかりそうになると腕を引いたり壁側へさりげなく押しやったりして気を配っているのだからホルマトが言うように
やたら女の人にもてるのがよくわかる。
大通りにさしかかったところでなにやら辺りがいつもより賑わっているのに気がつく。
アーシファが道ばたで露店を開いていた男に尋ねた。

「ああ、ファフリ様がお帰りになるんだよ、ほら来た!」

そう言うと男は仕事の手を休めて街の入り口から進んでくる行列を指さす。
行列は人が横に4人並んで、その後ろを大きな荷物を積んだラクダや象が続く。
武装した男達が仰々しいが一寸の乱れもなくきびきびと手足を動かしてゆっくりと前へ進んでいて
観光客の相手をしていた店の従業員達は手短に客へ行列の説明をし、
観光客も物珍しい物が見られると買い物をする手を休めながら行列を歓迎した。
真ん中あたりまで行列は進んだあたりでひときわ豪華な装飾の荷台が
動物に引かれて現れる。
屋根がついた荷台にはレースの布が幾重にも重なって掛けられており、
一歩進む度に荷台のあちこちに取り付けられた飾りがシャラシャラ音を立てながら揺れる。
次第に行列の周りには人だかりができていて集まってきた人達がその豪華さに溜息を漏らす。
荷台にただ一人座っている人物こそがこの国の祭司であるファフリである。
黒く緩やかなウェーブがかかっている頭の上には荷台と同じように金色に輝く冠が乗っていて着ている服も市民から見れば圧倒的に質が違った。
悠然とそこへ座る彼はまっすぐに前を見据えていて沿道からの歓声など聞こえていないようだった。

「今回はどこの地域の祭りを取り仕切ったんだろうな」

「…あの人、悪い人よ」

「え?おい、タルジュ」

ファフリを一睨みしてタルジュは人混みとなった沿道をするすると抜けるので
アーシファは慌ててそのあとを追う。
人の流れに逆らって行くので時々ぶつかった相手に睨まれたがすいません、
と小さく声をかけてさっさと進んで行く。
ようやくそこを抜けたところでタルジュは不満げにアーシファを待っていた。

「どうしたんだよタルジュ。ファフリ様は良い人だぞ」

「そう、でも私はそうは思わないし、嫌い」

「あのな……」

アーシファは何か言いかけてすぐに口をつぐむ。
非難の声を浴びるものだと思っていたタルジュは何も言わなくなったアーシファにどうしたの?と尋ねたが
アーシファは急にタルジュの腕を掴んで何も言わずに歩き出す。
ちょっと、と声を掛けようとも思ったが怒っているみたいでその言葉も喉の真ん中あたりで引っ込んでしまった。

「俺は覚えが無いから違うと思うから、あんただろ。つけられる理由があるとすれば」

「え?」

店が立ち並ぶ道を進んでいたが突然立ち止まったアーシファは曲がり角にある肉屋の前で立ち止まりタルジュを向かい合わせにさせた。

「男が3人。同じような服装だ。さも仲間同士だって言わんばかりだし。
気取られないように上手く見ろよ。見覚えは?」

「…一人だけ、あるわ」

「誰」

「………」

タルジュは押し黙る。
アーシファは肉屋の店員にこんがり焼かれた豚肉を一つ注文した。
店員は手慣れた手つきで豚肉をスライスして三きれほど、袋に無造作に詰める。

「わかった。どちらにしてもこのままつけられても面倒だから巻くぞ」

「う、うん」

受け取りながらアーシファが器用に話すので周囲からは他愛のない会話をしながら
買い物を済ませる良い感じの年頃の二人にしか見えない。
気づかれないようにわざとそう振る舞っているのだが相手にはどう見えるかわからない。
細心の注意を払いつつ自然を装って二人は肉屋に軽く挨拶をしてまた歩き出した。
暫く並んで歩いたところでアーシファがタルジュを暗い小道に押し込める。
そのまま大通りを進んで行くものとばかり思っていた男達は慌てて走り出し、
二人が入って行った小道を覗く。
小道は日陰になって薄暗くずっと奥まで続いているのに野良猫が一匹歩いているだけであった。
人の気配をまったく感じず三人の男達は物影に隠れているのではとにかくその道を
行ったり来たりして探したがとうとう二人を見つける事が出来ずに見失ってしまった。













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