「アーシファお帰り!」

「おかえり!」

「早かったな」

「首尾良くやったからね」

酒場の裏口から現れた息子をねぎらった家族は丁度準備をしていた夕食が並ぶ
食卓の席にそれぞれ着く。
父親が上座に座りその横にアーシファ、反対隣に父親の妻でありアーシファの母親が、そして父親の目の前に娘二人が座る。
酒場が開店する前の腹ごしらえと言ったところだが店に出て客の相手をするのは大体母親と父親で二人の娘とアーシファは店の裏で雑用を手伝うくらいだ。
この家族は代々盗賊でアーシファの祖父も、曾祖父もそれらの家族も盗賊らしい。
何代目、と数える事はしていないがそれぞれの時代で悪名が轟いたり義賊で名を馳せたりととにかく話題に事欠かない。
アーシファの父親も盗賊だがどちらかと言えば母親の方が有名でそれはそれは
有名な美人盗賊だったのだ、とか。
このおっとりした母親からは想像も出来ないような活発な昔話も聞かされたが未だに
信じる事が出来ないくらいだ。
そんな両親の元に生まれたわけだから同じようにその血を引いているらしいが
有名人の子供と言うのはどこか周りから生暖かい目でみられるもので
協力してくれる人達はみなまるで自分達の家族かなにかのように扱ってくる。
まったくありがたい迷惑だ。

「ねえアーシファ。さっき知らない女の人がね、お店に来たよ」

「そうそう、依頼主の子かしらね〜。あなたのこと尋ねて来たんだけれども」

「あ〜ほっといていいよ」

娘の言葉に母親が思い出したように言うのもいつものことだ。
アーシファは興味なさげに答えた。

「でも店が開く頃にまた来るって」

「なんでだよ…教えたの絨毯屋だろ!」

「そうも言ってたわね〜」

「なんでもホイホイ教えるなって言ってるのにどいつもこいつも…」

ぷりぷりしながら肉を頬張ると妹が不思議そうな顔で母に尋ねる。

「アーシファいっつも女の人が来るね?なんで?」

「アーシファはねぇ、お父さんと違って女の人に優しいからよ。
貴方たちも結婚するのならこういう人になさい?」

「はーい」

「はあい」

母はそう言って父親に半分、息子へ半分不平不満、嫌味をさりげなくぶちまけるので、
ぐうの音も出ないので男二人は黙々と母親が作った手料理を食べ続けるしか無かった。
食事を終えて酒場も開店時間を迎えるとわらわらと客がやってきて
静かだった店内も賑わいを見せる。
小さい店ではあるが客入りはそこそこで生活して行くには困らない程度に繁盛していた。
大通りにも勿論大きな酒場や洒落た酒場があるがこの店で無ければ!と
言って訪れるいわゆる常連客が多い。
旅行客も時折混じってはいるが帰る際にはまた来たいと笑顔で一言告げてくれるので
店主である父親はその都度嬉しそうに頷いているものだ。
客足もいよいよ落ち着いて来た頃、母親が言っていた通り昼間の少女が酒場に現れた。
酒と料理を器用に運ぶ母親を見つけた少女は昼間と同じ台詞で尋ねる。

「ねえ、あの人はいますか?お礼が言いたいのだけど」

「はいはい、お待ち下さい、アーシファ!」

母の声は思ったよりも良く通って、店の奥で手伝っている三人の子供達の耳まで届く。
勘弁してくれ、と溜息を吐いた兄をたきつける妹に根負けしてアーシファはイヤイヤ店の方へ出向き、アーシファの姿を見つけた少女は足早に駆け寄ってきた。

「やっと会えた、お礼が言いたくて」

「そう言うの込みで貰うものもらってんだよこっちは。
こう言う事されると迷惑なんだけど」

「お礼と謝礼は別よ。それにアレは私が依頼したことじゃないわ。
大体迷惑ってなによ、失礼ね」

「あ〜と、ちょっと出ようか」

少女を引っ張って店の中を突っ切ると客の何人かから冷やかしの声を浴びたが
そんな事へは耳も貸さずアーシファは外へ出た。
アーシファが何をしているか知っている人間がいるのは確かだが、
何も知らない客もいる。
盗賊家業は、一応秘密裏に行っているものなのでこんなことで世間に露呈しては
アーシファだけでなく家族や親戚にだって被害が及ぶのだ。
今まで誰にも知られずに済んだのはみんな上手くやってのけていたからで
それはこれからも継続していかなければならない。
時々この少女のように考え無しにアーシファを尋ねてくる人がいると
決まって父親にまだまだ未熟だとかツメが甘いとか小言を言われるのである。

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