アーシファは先ほどのハディード通りへと戻った。
通りの中心部は十字に別れていて縦は商店、横は催し物を行うちょっとした施設になっている。
右側へ行けば一般市民も場所代さえ払えば利用できる公共空間で
左側はいわゆる富裕層が利用する施設であった。
左の通路のこれまた左側には商店街よりももっと店舗のスペースも広く装飾も豪華な店が建ち並び右側は大きな観賞用の会場になっている。
赤い布張りの大きな扉の向こうには美しく着飾った富裕層の人間が
肩を並べてそれを待ちわびていた。
競売だ。
富裕層が利用するとは言え、一般人が参加できないわけじゃない。
予約制、招待制の競売ではあるが見学者や一般人の参加者のためわずかではあるが
透明な仕切りがあるスペースが壁側に設けられていてそこからいつでも
眺める事が出来る。
運が良ければ競売品のすぐ近くの場所を勝ち取る事もできるがそこはいつでも
よれよれの服を着た人達でごった返していた。
アーシファはステージから少し離れた場所に潜り込み目的の品を探す。
そこにはしっかりと競売品として展示されていて
他の品に引けをとらないくらいに照明の光を浴びて輝いていた。
どの場所よりも警備の目が厳しく警備員の人数も多い会場から一旦抜けて
ハディード通りから出た。
屋上へ繋がるはしごを目指し、人目につかないように少し錆た鉄棒へ足と手をかけて軽やかに昇っていく。
屋上へたどり着いたアーシファはおおきく伸びをして辺りを見渡し転落防止の鉄の柵を見つけた。
ところどころが腐って折れていて力一杯に引っ張るまでもなくあっさりと取れてしまった。
良いものを見つけたところでそれを持って屋上から通りの中へ繋がる扉を抜けた。
屋上の真下、天井の上は人が通れるほどの空間があり、そこから照明を修理したり取り付けたり、空調の設定を行っている。
機械音が響いているので人が歩く足音など簡単に消してしまう。
足早にダクトや電気線をよけながら進んでいき、競売の会場のちょうど真上にさしかかったところでアーシファは息を潜める。
潜めても息づかいなど機械音でかき消されてしまうので意味は無かったが緊張する必要性は大いにあった。
目的の品は次ぎのようで司会の男がマイクを使わずに自分の声で丁寧に説明を続けていた。
聞いた事もないような金額が会場に飛び交って目玉が飛び出てしまうのではないかと思うような値段でそれは競り落とされた。
その瞬間に会場は拍手がわき起こり落札した人物は誇らしげに起立して辺りに頭を下げる。
それが彼らのステータスになるのだ。
全くもって馬鹿らしいとアーシファは心の中で悪態付きながらいよいよそれが
壇上へ上がるのを待った。

「さて、次は珍しい緑の首飾りです。貴重な緑の宝石がこの大きさで加工されているのは実に珍しい。勿論装飾も申し分なしです。さあ、それでは開始いたします!」

司会が言い終えた瞬間に突然大きな音とともに天井が崩れてさび付いた鉄の棒が
競売品である緑の首飾りのすぐ傍へ突き刺さっている。
司会の男は驚いて尻餅をつき怯えた声で逃げ惑っていたが
会場内も似たような状態になっていた。
我先に外へ出ようと入り口へ一斉に詰め寄るものだからまるで商店街の通路のようである。
警備員も慌てて彼らの身の安全やら競売品の安否やらでてんてこ舞いしている。
そんな騒ぎの中では競売品の一つや二つが紛失したり、破壊されていてもおかしくは無かった。
がれきと一緒に会場に飛び降りていたアーシファはまるで通り過ぎただけのような涼しい顔で緑の首飾りをかすめ取ると懐へしまい込んでぎゅうぎゅうと詰まっている入り口の人混みに紛れた。
ようやく入り口からはき出された人達は着衣の乱れもはばからず蒼白な顔で四散していく。
その背後から先ほどとは違う司会の悲鳴が響いた。

「く、首飾りがない!!」

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