大皿に肉料理、魚料理、サラダ、デザート、とにかくありとあらゆる料理を
いっぺんに注文しまくったおかげでテーブル1つでは場所が足りず
隣のテーブルにも配膳されたものをかたっぱしから手をつけていった。
その細身の体のどこに収まるのか疑問に思ったが、加えて
次期女王のカントも負けず劣らずの食べっぷりである。
キリとタクトは酒のコップを手から離さずに器用に食べている。
言葉通り、豪快だ。

「あんたよく食べるな〜…」

「武術の稽古はお腹がすくの。勉強はもっとお腹がすくし」

カントも兄と同様、ぱくぱく食べ物を口へ放り込む様は見ていて気持ちが良いくらいだ。
これだけの量を摂取してもすべて消費されるのだとしたら
彼女がしている稽古がよほどに過酷なのだろう。

「君も食べたら?あ、コレおかわりくださ〜い」

空になった皿を掲げてタクトが叫べばほかほかと湯気を上げた料理が出てくる。
周囲の客達もその勢いに負けじと酒をあおり、歌ったり踊り出す。
ひどく身分の違いを気にしていた傭兵も再び酔いも回ってお構いなしに
絡み酒を始めていた。
嫁の性格がきつい、とか仕事がなかなかまとまって入ってこないだとか
子供が思春期でどうしたらいいのかだとか些細な愚痴をくどくど続けても
キリは嫌な顔一つ見せずに時々相づちを打ちながら聞いている。
サフワは想像していた偉そうで傲慢なイメージとは全く違うキリを見て
この人もやはりフォレガータの子供なのだと実感していた。

「フォレガータ女王は本当にいい王様だな」

「私のかあさまだもの。良いに決まっているでしょう」

火照った体を少し冷やそうと、酒場の外に出ると自分と同じような考えの客が何人も
壁際のベンチに座ったり、立ち話をしていた。
空はすっかり太陽が顔を隠して月が代行として夜道を照らしている。
カントの気配を感じたサフワは月の周りにかすかに見える星を見上げながら
肩を竦めた。

「それはどうかわかんないけど、隔たりが感じられないって言うのはわかる」

「どう言う意味よ」

不服そうにカントは両手を組む。

「この人達なら国をよくしてくれるって意味だよ。他国の王さまだけど羨ましい」

「ノグは私がいるわ」

「あんたなぁあ…」

「か、かあさまには及ばないかも知れないけれど、頑張るわよ!」

小馬鹿にしたようにサフワが見てくる理由など自分が一番分かっていた。
少し慌てたのだって、虚勢ではなく真実にしてみせると伝えたかったからだ。

「いいんじゃない、及ばなくて。陛下は陛下、あんたはあんただろ
おんなじようにしようとしなくたっていいと思う」

「……うん…、ねえ」

「何」

「その、えーと、壁は越えられそう?」

暗がりだし、酒は飲んでいないからきっと顔の色なんてわからないはずだ。
頬が熱いと感じながら尋ねたらサフワはにっこり笑う。
こういう笑い方をするときは大抵自分が勝ったと思っているのだ。

「カントが手伝ってくれるなら」

二人が少し移動した細い路地に店の明かりも月明かりは届かず、
見えるのは小さく光る星だけだった。

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