やがて酒場に立っているのはカント、タクトと呼ばれた男、
そしてユルドニオ国王の三人だけになった。
一番初めに跪いたサフワを笑い飛ばす男達も泥だらけの床に
額をこすりつけるサフワを見てだんだん引きつっていきやがて慌てて一斉に膝を折る。

「…はあ、こうなるからフード取るのいやなんだ」

「そもそもお前が怯えさせるからだ」

「サフワ、頭を上げてよ。今日は兄様忍びで来ているのだから」

「そう言うわけにはいかないだろ」

「いいから、みんなも立って。椅子に座って飲み直して。兄様がおごってくださるのだから美味しいもの沢山食べましょう」

そう言われてようやくそれぞれ近くの椅子へ腰を下ろしたが
先ほどまでの陽気さは失われていた。
豪快な傭兵といえども、傭兵だからこそ身分の差はしっかりとわかっているのだ。
どんなに理不尽な扱いを受けても罵声を浴びせられても王は許される。王のみが。

「母様には堂々としていたのにどうしたの」

「女王陛下はそんなに威圧してこなかったから…」

「に、い、さ、ま。ソレやめて」

「無理だよ。俺はそいつが嫌いだ」

「そう、なら私もそうさせてもらうわね。ユルドニオ国王陛下。わたくしも貴方が大嫌いです」

「は!?」

一本取られてるぞ、と笑い飛ばす従者。
ユルドニオ国王に劣らず胸を張って睨み付けるカント。
頼むから変な事は言わないでくれと心の中ではらはらしながらも懇願するサフワ。
少女の気迫と言葉に気にくわなそうにうなっていたもののやがて観念したのか王は溜息交じりに両手をあげる。

「わかったよ…」

「さすがキリ兄様。ほらサフワ、もう大丈夫だから」

「なあ、あんたユルドニオ王の事兄と…あんたも…」

まだ酔いが引いていないのか顔をほてらせた男が震えた声で尋ねる。

「うーん。私はカント・ノグ・ホウヴィネン。次期女王候補です」

「おいおい…ユルドニオ王だとか皇女さまだとか…どうなってんだ一体…!」

「サフワお前知ってたのか…!?」

「まあ、カントの兄ちゃんに会うのは初めてだけど…」

詰め寄られたサフワは肩を竦める。

「いいじゃないか。今日はお忍び出来てるんだから。
ただの客として店に来たって事で」

タクトとキリは近くのテーブルに腰を下ろしてフードを脱いだり、
剣を下ろしたりとくつろぎ出した。
国のトップにましてや他国の王に粗相などあれば一大事。
一番慌てていたのは酒場の店主だ。

「そ、そんなわけには行きません!」

「いいよ…、もうお言葉に甘えとこーぜ」

「何言ってんだサフワ!王様と皇女さまだぞ!」

「郷に入っては郷に従えよ、私たちもそれに習うわ」

「…それ使い方合ってんの?」

「違うの?」

「うーん」

「まーまー、元々俺達この国出身だし、久しぶりに故郷の酒飲みたいし、料理も食いたいって訳だから、注文お願いしまーす」

メニューを開いて一通り眺めたタクトが手をあげて元気よく
ウエイトレスを呼ぶ声が店に響いた。





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