それからはアスターがバジルの専属の護衛となっており、バジルが
どんな悪戯をしていようとも、どんなに怠けていようとも、
神出鬼没にバジルの前にはアスターが現れた。
とは言えバジルにもプライバシーと言うものがある。
よっぽど友人同士の深い話し合いなどの時はしっかり気を遣って
その場を離れるからバジルも邪険に扱うことが出来ないでいた。

「お前さあ、むなしくならない?女なのにこんな事してて」

「別に。これはこれで楽しいんですよ。若のお間抜けな姿を
焼き付けられるのかと思うと」

「うるせ…」

アスターは時々よくわからない言葉で会話する。
本当はよくわからないのではなく、それは都市部に見られる貴族や騎士の言葉だ。
王を敬い、上司を信頼している騎士や貴族がよく使うものでバジルが住む
地方ではあまり聞き慣れないだけだ。
時たま領主館を訪れる騎士や貴族はいつもそんな話し方だ。
バジルはそれさえも気に入らなかった。

「そう言えば若、またお見合いの話蹴ったんですってね。とても美人で
良い方だったそうじゃないですか。勿体ない」

「早すぎるんだよ…まだ17だぞ、俺?」

「もう、17です。この領地をお継ぎになるのなら遅いくらいですよ」

「…お前は俺が結婚してもいいのか」

「どうして私に聞くんです?」

「だって、その、と、友達だろ…」

アスターが聞き返すのもムリは無い。
アスターが結婚するのでは無くてバジルが結婚するのだから決めるのは
バジルである。
例え周りから圧力を掛けられようともよほど切羽詰まった状況で無ければ
決定権はバジルにあるのだからアスターに尋ねるのは見当違いであった。

「友達ならば祝福しますから。さっさと結婚して下さい」

「さっさとってどう言う意味だよ!」

それからバジルは父親の仕事のいくつかの引き継ぎを行った。
まだまだ領主としては父親の力の方が大きいので現時点では見習い或いは
手伝いと言った立場だがいずれはバジルが継ぐものである。
どんな仕事も教わらなくていい、見なくていい仕事は一つとして無かった。
同じ年頃の友人達と言えばまだまだ遊びたい盛りで自分達の仕事が
終われば互いに集まって遊びまくっている。
彼らと立場が違うバジルにとってはそれはとてもとても羨ましいものだった。
どんなに権力を持てたとしても代えがたい絆や信頼は権力には生まれない。
今だってアスターに手を貸して貰ってこっそり館を抜け出して彼らと
遊んでいるくらいなのだから、もし領主になった時には
そんな暇さえ与えられないのだと思うと少しだけぞっとした。

「あ〜あ…旅に出たいな…」

「2泊3日くらいならお供致しますよ」

「…旅行じゃなくて…」

バジルは首を振って見たがアスターはにこりと貼り付けたような笑みを浮かべる。
彼女はバジルの中にある不平不満がわかっているらしく、あえてそう言ったのだった。
それに気がついたバジルは少しだけ恥ずかしくなって口元を歪める。
彼女は恐らくどこまでもついてきてくれるだろう。
バジルがもし、世界の果てに行きたいと言ったとしてもきっとその一歩後ろを着いて歩くのはアスターなのだとなんの確信も成しにそう思っていた。



その日が来るまでは。


[ 55/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -