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「う……」
「なんで詰まるんだ」
どう答えていいのかわからず黙り込んでいるとあきれたように青年がため息を吐く。
ため息を吐かれる自分が悪いのだがこんな風に誰かから気持ちを伝えられた経験のない
カントにとって初めての出来事である。
魔法学院の友達からたくさん聞く恋の話だって、結局のところ自分の想像からは
逸脱しない程度に収められているものだし、何より友達が話してくれた
シチュエーションとは全然違うのだ。
彼女たちが言っていたのはもっとこう、雰囲気があって、とてもロマンチックで、
ドキドキして、お互いの緊張感が空気で伝わってくるようなものだと言っていたのに、
サフワと来たらムードのムの字も感じさせないのだから。
「だって…言われた事ないし…」
「だろーな。あんた見てるとそう思う」
「どう言う意味なの」
「あんたの周りにいる男どもがそわそわしてんのにそこに皇子や父親がうろちょろされて面白いやつなんていないし、なによりそんなでっかい壁にはばかられちゃなにもできないしな。そりゃあ言い寄ったりもしずらいだろ」
「ええ〜…兄様も父様も怖くないのに」
「まあ家族には誰でもそうだろ。それに一人娘だし、妹だし」
「サフワは怖くはないの?」
「怖いよ。でもそれ以上のものがあんたにあるって事」
にやりと笑った顔は初めて二人が出会った頃、城へ忍び込むのだと
教えてくれた時のあの時のサフワの目だった。
「今のサフワの目、あの時の盗賊の目だわ」
「まぁこれ以上罪を犯すつもりはないから、真正面からお願いに行ってみるよ。
幸いにもこの国の王族って身分には寛大みたいだから」
「サフワの言葉ってなんだか難しい。もうちょっとわかりやすく言ってよ。
出会った頃はあんなに頼りなかったのに」
「カントって頭はいいんだろうけど、馬鹿だなあ」
「もう!!真面目に聞いてるのに!」
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