それから青年は、住み込みで城専属の清掃員にくっついて一緒に清掃活動に従事した。
毎日毎日城の廊下や、柱、ある時は城壁のてっぺんまで昇って高所での作業もこなした。
カントはと言えば暫く大人しく謹慎処分を受け入れた後、母や兄にくっついて
外交活動を行っていた。
難しい話ばかりで頭がパンクしてしまいそうなのを必死に堪え
なんとか作り笑いを続けるのが精一杯だったが決して文句は言わなかった。
短いときは当日城に戻れるのだが、遠方になると長期間城から出なければならないのもあって、青年と顔を合わせるのはごくわずかな時間のみだった。
それでも外で見てきた出来事や国の様子を城から出られない青年に変わって見聞きして
一つも漏らさず青年に聞かせた。

「それでね、とても大きな時計があって、そこで妖精を見ると幸せになれるんですって」

「ふーん。妖精なんているんだなあ。まあ精霊もいるくらいだからいるのか…」

肉と野菜を挟んだパンを頬張りながら嬉々としたカントの話に何度か頷いて青年は呟く。
一度敬語を使って話したらとても叱られて以来、青年はカントに『普通』に振る舞うようになった。

「私は見られなかったけど、きっと父様なら見られるかも」

「ああ、なんか見えそう」

「なんかとげがあるわね」

含みのある言い方にむっとすると青年は食べかけたパンをまた
弁当箱へ戻し、そのままそれを見つめていた。
そうして暫く無言でいたかと思うと意を決したように顔をあげる。

「…あんたさあ」

「なに」

「いや、こう…父親と兄に依存してるっていうか…ファザコン?ブラコン?」

「違うわよ…」

「ふーん。じゃあ他の男があんたに言い寄ったとしたらどうすんの?」

「え?そりゃあいい人だと思ったらそれなりの対応するわよ」

「それなりってなんだよ」

「それなりは…それなりよ」

「あんたの事好きなんだけど」

「そう……えっ」

あまりにもごく自然に言うものだからカントはその言葉を聞き逃しそうになった。
慌てて青年を二度見したら青年は空気をすうのが当たり前のように、
その言葉も当たり前に出てきたのだと言いたげな顔だ。

「だから、好きなんだけど」

「サフワ、どうしたのいきなり」

いかなる時にも取り乱してはいけないと教えられたのはいつからだったろうか。
とにかくうんと小さなころから母にも作法の先生にも口うるさく言われてきたものだから
もう16にもなると言われなくても自然と出来るようになっていたのだが
今回だけはそうはいかなかった。
再びその言葉を告げられて冗談ではないのだと確信すると
心臓が一気に騒がしさを増していく。

「いきなりじゃないよ、結構前から思ってた」

「結構前っていつよ」

「結構前は結構前だよ」

「…」

「それなりに考えろよ」

「えっ!?」

「考えないのか?身分が違うから?」

「そ、そう言うのは気にした事無いわ」

「じゃあ考えろ」


[ 42/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -