翌日、空に昇る太陽は一つの障害もなくさんさんと地上に光を注いでいた。
遠く地平線にどっしりと構えている白い雲は暫く太陽のジャマをしそうには無い。
王の広間の入り口と、王の傍らに近衛兵が立っていて、
壇上から降りたすぐ横に罪状を読み上げる裁判官が一人、
そしてその先に罪人であるあの青年が縄を掛けられ、両膝を床について座っている。
罪人が逃げ出さないようにとその横にも兵士が一人、身長よりも長い槍を持って待機していた。
カントとエムシは壁際に置かれた傍聴席に座り、その様子をうかがっている。
裁判官が淡々と罪状を読み終えると女王のフォレガータは、王座の背もたれに体重を預け、足を組んで青年を見下ろした。

「サフワとやら、これに間違いないか」

「はい、間違い有りません」

「罪を素直に認めるのは良い事だ。それでは…」

「待って下さい母様!あの人が城に忍び込んだのはわたしが手引きしたからなの。だから、私にも罪はあるわ」

いよいよ刑の執行と言うところでカントが思わず青年の前に飛び出す。
兵士が一瞬反応したが飛び出したのがまさか皇女とは思わず
罪人への接近を許してしまった事にやや困惑しているようだった。
女王が右手を挙げたので許しを貰った兵士は何事もなかったかのように
他者の接近へ気を張り巡らせた。
カントはまっすぐ女王へ視線を向け両手を前で組み、背筋を伸ばす。

「お前は皇女の身でありながら罪に手を染めたのか」

「…そうです」

「理由を聞こう」

「彼の事を…不憫に思ったから。彼が城の宝一つで生きられるというならそうするべきだと思ったから」

母親の威圧感に気圧されてはいけないと思いつつもついつい声がうわずってしまう。

「愚かだな。それでは一時しのぎにしかならん」

「わかってます。でも」

「お前の言い分はそれだけだな?大臣、刑を執行しろ」

「待って!!私は!?」

もはや青年を助ける事も出来ないのなら、せめて自分も彼の罪を背負おうと思った。
どこかで、家族なのだから、母親なのだから少しは許してくれると思っていたのだが
女王はどこまでも厳しい態度を崩さない。
青年がここまで来た経緯を聞いても尚、女王は慈悲もかけないのだろうかと
悲しさと同時に自分が何も出来ない悔しさで涙がにじんでくる。

「お前はしばらくの間謹慎を命じる」

「そ、それだけ…!?」

「そうだ」

「変よ!私のした事だって立派な犯罪だわ!」

カントはフォレガータが淡々と話すのでいよいよ腹が立ってきた。

「お前が皇女だからな。それ故の軽減だ」

「母様がそんな事を言うなんて…!」

厳しいはずだった母が我が子だけは助けようと言うつもりなのだろうか。
民と分け隔て無く接してくれていたはずの母がまるで王家の保身のためだと
言いたげな言葉を吐くなんて誰が予想できただろうか。
自分の考えが甘かったとは言え、人一人も助けられないなんて
情けなくて青年の方を振り向く事すら出来ない。
彼がいっそ罵ってくれればいいが身分の差でそれすらも出来ない事はわかっている。
しかしそれすらも自分が甘えている証拠なのだと気がついたときにはもうすでに遅かった。

「私は今まで方針を変えたつもりはない」

「それじゃあ彼はどうなるの!!」

「あのう…」

「何っ!」

おずおずと声を上げた裁判官を半ば八つ当たりのように睨み付けたが
裁判官はヒィと小さく悲鳴を上げつつも弱々しい声で続ける。

「カント皇女…?盗人の罪は…その量、物によって異なりますが今回は1年間の無償での城内の清掃活動ですが…?」

「え?!」


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