「だからその人は私が城に入れたって言ってるじゃない!」

「わがままもいい加減にしろカント!お前はお遊びでこいつを入れたかもしれないが
こいつは命がけでここに来てるんだぞ。それくらい俺にもわかる!」

「じゃあ兄様はこの人を殺すの!」

「それは俺が決める事じゃ無い。情状酌量の余地はあるかもしれないが、その余地を作って欲しいならそれ相応の場所できちんとした答えを持ってお前がするんだな」

「母様を言いくるめられる人なんていないわよ」

「じゃあできる人を味方につけたらどうだ」

この兄妹は王族の割に上下関係を気にせずに自分の気持ちを素直に発するのだなと
青年は感心していた。
何より皇女が自分よりも自分の身の心配をしているのがすこし面白かった。
手引きをした事に責任を感じているにしても彼女は他の国の王族とは違う気がした。

「あのさあ、罰はちゃんと受けるって。それよりもさっき俺が言った事を女王陛下に言ってくれれば助かるんだけど」

「でも貴方は助からない」

「それはいいんだってば」

「よくないわよ」

皇子が青年を兵士に引き渡して、兵士が青年をとりあえずと牢屋へ連れて行く事になったのだが皇女は、牢屋までついていくと言ってきかない。
兄皇子のエムシは好きにさせろと地下へ続く入り口で別れたが
カントは涙を浮かべた丸い目で青年を睨んだが青年は拘束された両手首へ視線を落とした。
青年には妹はいなかったが村にはたくさんの年下の子供達がいた。
その子達を思い出して彼女の頭を撫でてやりたくなったがそれも出来ない自分が少し情けなくなったのだ。

「私はね、見る目があるの。だって母様の子だもの」

「うん?」

「私が牢屋から貴方を出してあげる。それで貴方の村の悪い領主をやっつけてあげる」

「頼もしいもんだなお嬢さん」

フッと笑った青年にカントはいよいよ泣き出しそうになったが
奥歯を噛みしめてようやく地下牢から出て行った。
本来、皇女が罪人だらけの場所にくるのがそもそもおかしな話なのだ。
兵士は、青年を牢へ促して入ったのを確認すると大きな南京錠をしっかりと閉めて
看守へ鍵を渡す。
青年は牢の中にある質素なベッドに腰を下ろすとようやく大きく溜息を吐いた。
そこで初めて自分が今まで緊張していたのに気がついて少し可笑しくなり口元に笑みを浮かべる。
当初の計画では一人で忍び込んで一人で捕まって、あわよくば兵士の偉い人にでも
話を聞いて貰えればと思っていたのだがとんだ計算違いになってしまった。
まさか皇子と皇女に話を聞いて貰えるとは思わなかったが
話が通るとも青年は思っていなかった。
総じて、平民の言葉は頂点に立つ人間には届くものではないと思っているからだ。

(だから、誰も声を上げようとしないんだろ。
ムダな労力を使ってムダな事をするのは非効率だから)

向かい側の牢屋では別の罪人が寝息を立てている。
隣やその斜め向かいの罪人はそれぞれに自分達の時間を過ごしている。
どんな罰が下されるのかわっているからか思っていたよりも静かだった。



[ 39/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -