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「それで。どうしたいんだ。こいつを」

「えっ」

「どうにかしたいと思って城に入れたんだろ?婚約なり、給仕なり」

溜息交じりに言いながら、ようやく剣を鞘に収めた男に
カントは慌てて頭を振る。

「そんなつもりじゃない…。ただちょっと…羨ましかっただけよ」

「何が」

「…自由そうで」

「お前も十分自由だから安心しろ」

「そう言う事じゃないってば!」

「なあ、さっきから思ってたんだけどあんたたち何者なんだ?」

少女が現れたおかげで男の殺気にも似た警戒心が解かれたのは幸いだが、
青年はやや会話に置いて行かれながらも二人に伺うように尋ねる。

「皇女よ。兄様は第一皇子」

「皇女と皇子って…皇女って時期女王の?」

「そう」

「女王ってフォレガータ女王?」

「そうだ」

「それって…この城の持ち主の?」

「そうだってば」

「なっ…!?えええええ?!」

広く鏡のように磨き上げられた廊下に青年の声がこだまする。
すると別の通路から兵士が慌てて顔をだしたが、すぐにカントと男が
兵士に持ち場に戻れと命令した。

「おま、おまえ、皇女だったのか…!?」

「…そうよ」

青年がカントを覗きむとカントは体を竦める。
騙したと罵られるか、裏切ったと暴言を吐かれるか。
最初からわかってて身分を隠して青年を手引きしたつもりだったが
いざその時になるとやはり体は正直で身が固くなる。
けれど悪い方へと考えていたカントの予想を裏切ったのは青年だった。

「あっはは!ほんとかよ!俺こんなに近くで皇女さま見たの初めてだ!」

「えっ」

「へー!皇女さまって気取ってるもんなのかなと思ったけど、案外そうでもないんだな」

「どう言う意味よ」

「なんだよ急に警戒するなよ」

「別に警戒してなんか…」

明るい声で、会った時と同じように青年はカントの身分を明かされても
態度を変えない。
やや面食らったがそう言う人間も時々いるのだと母親から聞いていたカントは少し嬉しく思った。

「ええと、皇子様、このまま捕まる前に聞いてほしいことがあるんだけど」

「なんだ」

カントに視線を合わせてかがんでいた青年は第二皇子のエムシに向かって
表情を硬くして背筋を伸ばす。
エムシも青年が急にまじめになったので眉間に少し皺を寄せつつも罪人の声に耳を傾けた。

「俺の生まれた村はノグ国の北西にあってすごく貧しいんだ。
なんで貧しいかわかんないだろ。領主が威張りくさって村人からは
税金だと言ってありとあらゆる作物や特産品を徴収しまくってるからだ。
他の村と商売させてもらおうにもその領主に税金を払わなきゃいけない。
そのサイクルでこれまでずっとやってきたけどさすがに限界だ。
子供たちは今にも飢えそうだし、年寄りはバタバタと死んでいく。
ほんとのところこんな宝なんてどうでもいいんだ。
持ち帰ったところでその場しのぎにしかならない。だから、宝を盗んで、
捕まった時少しでもいいから話を聞いてもらいたくてここに来た。
フォレガータ女王陛下は名君だけど、だからといってスラムの一人にまで
気を配ることなんてできないのはわかってる。俺の村はまあ
スラムまでともいかないけど」

青年の話に一番呆気にとられていたのはカントだ。
妹の間抜けな顔を横目でちらりと見てエムシは「これが理由か?」と
小さな女王候補へ尋ねるがカントは心の底からびっくりしたようでふわふわと長い髪を揺らして首を横に振る。

「し、しらない…こんなの風の精霊は教えてくれなかった。父さまだって」

「そこまで教えて貰えなかったってことか。まだまだ、修行が足りないなカント」

「うう…」

「ああ、この地域は精霊がいるんだよな。他の人にも言われたけど俺、どうもその精霊と相性が悪いみたいなんだ」

「えっ」

「俺もともと、ずっと東の小さな島国から来たから、なんて言うか別な力が
働いてるんじゃないかって前にこの国の魔術師に言われた事がある」

どこかで聞いた話のような気がしたがこの時は思い出せず
エムシもカントも青年の話に感心していた。
事情の全容は見えたものの、青年が城へ無断(?)で忍び込み、
宝物庫の宝を盗んだ事実は代わり無いのだから、と話を蒸し返したエムシは、
皇子と皇女に何かあってはと警戒して通路の影からちらちらとこちらの様子を
うかがっていた兵士の一人を呼び、拘束具を取り付けさせた。
青年は大人しく捕まったがずっと駄々をこねていたのは勿論カントである。






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