「そこの盗賊、止まれ。そして盗んだものを足下に置いてゆっくりこちらに来い」

丁度開けた廊下を走っている時だった。
男の声が廊下に響いたと思うと青年は体の筋肉すべてが硬直してそのままその場から動けなくなる。
声は後ろからしてきて恐る恐る振り向くと男は、廊下の違う通路からゆっくりと姿を現した。
男は青年に恐らく腰に下げていたであろう剣の先を向け、青年を睨み付けている。
やはりあの男か、それとも少女が城の誰かに言ったのだろうか。

「盗賊がどこから侵入したかは知らないが、よくもこの城へ忍び込めたものだな。
ここがどこだかわからないわけでは無いだろう?」

男は駆けつけるでもなくゆっくりと青年に近づいてくる。
青年は聞こえないように舌打ちしつつも言われた通り、
持っていた宝物の入った袋を足下にそっと置いて両手を頭の後ろに当てて男へ近づく。
青年が抵抗する意志を見せなくても男は警戒をやめずに剣を突きつけたままだった。
そしてきれいに研ぎ澄まされた刃を青年の首元まで持っていくと
冷たく堅い感触を押し当ててくる。

「兄様だめ!その人はダメよ!」

「カント?!」

「だめ、だめなの…!その人は悪い人じゃないわ。そんな石の一つや二つ、
くれてしまえばいいのよ!殺してはダメよ!」

「一つや二つじゃあないだろ!宝物庫の中には他国から友好の証として
賜ったものもあるんだぞ!それに罪は罪だ!」

「うわべだけの友好なんてあって無いようなものだもの、盗まれたって仕方のないことよ!罪を犯して罰せられるならわたしも一緒だわ、私がこの人を手引きしたんだもの!」

さっき自分を城へ入れる手助けをした少女が男と自分の間に割って入ってくる。
そしてその細い手をいっぱいに広げると男を睨み付けた。

「はぁ!?お前は…!自分のしたことが分かってるのか?!」

「わかってるわ、『わたし』が、この人を城にいれたの」

「…城に入れたいのなら正面から入れたらいいだろう、なんだってこんな
盗賊みたいな真似…」

「まあ、俺盗賊なんで」

「お前に聞いていない、黙っていろ」

とぼけた声で青年が答えたら男は青年を人にらみする。
ひゅっと肩を竦めた青年に助け舟を出すかのように少女は更に男に食って掛かる。

「そんな母様みたいな言葉づかいで言ったってダメよ。それにこれは私がした事だもの。兄様にだって文句は言わせない」

「お前、こいつをどうしたいんだ…」

男はとうとうあきれたのか大きくため息をついた。

「この人、ここの宝を盗んでそれを子供たちに分けるつもりでいるの。
お金に換えればお腹いっぱいのごはんが食べられるからよ」

「だからって人のものを盗んでいい理由にならない」

「わかってるわ。だからこれはあげるの。この人が盗んだんじゃないの」

「カント。お前さっきから自分で言ってることが支離滅裂だってわかっているだろうな?」

男が少女に言い聞かせるように言うと少女はグッと押し黙る。
自分の事を助けようとしてくれてるらしいのは有り難いが、確かに
男の言う通り少女の言葉には一貫性がなかった。
おそらく彼女の中の感情だけが独り歩きをしていて
言葉がついていかないのだろう。
最初に出会った時のような冷静さが失われている所為なのか、
少女にはその時に感じた大人の雰囲気よりも風貌そのものの、子供の雰囲気が
かもし出されていた。




[ 37/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -