中へ戻り、先ほどまでカズマとフォレガータが熱心に覗き込んでいたテーブルは、
恐らく話の途中であったのだろうと言う様子が伺い知れた。
小さな戦車や兵士の模型が卓上地図の上にぽつぽつと配置されていて
リンは、精巧に作られたそれらの模型に心底感心して顔を覗き込んだ。
より正確に作り込む事で臨場感が出るのだとフォレガータが説明してくれると
ますますリンは頬を紅潮させる。
さっきまで緊張と、カズマとフォレガータの話について行けない孤独感で
そんな事も気に掛ける暇もなかったのだ。
改めて見るとみているだけでもまるでおもちゃが動いているようで楽しかったのだと
今更ながらに気がついた。

「子供みたいだね」

「す、すいませんはしゃぎすぎました…」

「姫、我々軍人は兵を動かして戦争をするのが仕事です。私のような人間は別として
女は大抵、女は男の影に隠れ、男の帰りを待つものと思われがちです」

「は、はい」

「こう言った社交の場でもただ殿方の隣で笑っているだけでいいと」

「…はい」

「しかし貴女はカズマ王子の妻だ。知らない聞いていないでは済まされない事もある」

「はい」

「今回の事は私も配慮に欠けた事を詫びよう。つい殿下と意気投合してしまって、
王からの頼まれ事を忘れてしまっていた」

「王…?」

「まさか、父ですか?」

リンにはピンとこなかったがカズマはすぐに察しがついた。
何せノグ国へ自分たちを派遣したのはほかならぬカズマの父親だったのだ。
どこか含みのある物言いの仕方だったので何かを企んでいるのだろうなとは
思っていたが息子である自分ではなく、まさかカズマの妃であるリンを案じての
ことだとは思いもよらなかった。

「私もどちらかと言えば后と言う立場の人間ではないから役には立ちそうにないと申し上げたのだが、どうしてもと仰るので、僭越ながらお受けした。王からの言づてをそのまま言おう『私の妻はもう他界してしまっていない。だから見本となる后が彼女にはいないのでほとんど手探りの状態で社交界に出る時もある。それではあまりにも可哀想だからフォレガータ女王に見本になって頂きたい』と」

「そんな大事な事忘れてんの…」

「だから詫びると言っている。お前にも手紙が来ていたろう」

「あ〜。お坊ちゃんが頭が固いからほぐしてやれとは書いてたかな」

「お坊ちゃん…」

「アガタ、失礼だぞ」

「ガキにガキっつって何が悪いの。いいじゃん。
こんな頭ごなしに言われる事なんて滅多にないでしょう。あんたの大好きなお父様は
違うタイプだからこんなにはっきりとは言わなそうだし?」

確かに臣下達は無遠慮な者が多く、時々自分を差し置いてもリンにちょっかいを
だしてみたり、時には信頼と尊敬を込めて諌めてくれもする。
しかしアガタのように切り捨てるように短所を言い切るものは決していなかった。
含みも無い、裏も表もない、思ったままにカズマをまっすぐ見ている。
いや、まるで見透かしているようだった。
自分ですら目をつぶってしまいたい事も、この男はきっと包み隠さずに
話してしまうのだろう。
だからと言って嫌っている風もないのだから不思議なのだ。

「父に、お会いになったことが?」

「あるわけないだろ」

「カズマ王子よりもお前の方が少し勉強が必要だな、アガタ」

ぶっきらぼうに答えるアガタにフォレガータはため息を吐いた。
アガタはテーブルの上にある冠を被った人型の模型を持ち上げながら
敵陣のど真ん中へ静かに置いて言った。

「ああ、王様の方が話は通じそうな気はする」




[ 26/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -