キリは動転しながら略式ではあるがフランクの忠誠の儀を受けながら
フランクの言う『あの時』の事を思い出す。
城の裏にある森を少し散策したいとキリが一人で向かい、
キリを快く思っていなかった隊長は、下っ端であったフランクをただ一人、護衛の為に遅れながらそのあとをフランクに追わせた。
運悪くフランクは夜盗に囲まれ、あわやと言うところで人の気配にキリが表れたのである。

キリは、あろう事か丸腰で、夜盗を見て少し驚いていたが
囲まれたフランクが大泣きして嗚咽を漏らしていたのを見ると
すぐに目の色を変えた。
夜盗へ向かうと軽々しく身を翻して夜盗から武器を奪い、
つぎつぎと簡素な剣でなぎ払っていく。
剣の訓練ではあんなに苦手だと言っていたのに、とその剣さばきを見て
思ったが、よくよく観察していると確かに『王城で教える剣術』は
苦手のようでみっちり教え込んだ基本の型を一つも実行していなかった。
しかし、得意としていた槍術と同じく動きにムダはなく、流れるようにして最後の一人を倒してしまった。

「大丈夫ですか」

「うぇっ、はい、…っ大丈夫ですぅ…!」

「…なんで一人で来たんですか…」

「隊長が…っ殿下の後を追えと……!」

「なんだっけ、トナ隊長だっけ…。俺の事嫌いそうだもんね…。まあけがしてないみたいだし…よかったですね」

「あり、ありがとうございます…!申し訳ありません…」

「なんで謝るんですか」

「だって、僕が守らなきゃいけないのに…!」

「別に無理して守らなくてもいいと思いますよ。えーとフランクさん?が
できる範囲でやれる事したらいいと思います。大体、俺の護衛に回された時点でちょっと気の毒なのに…」

「そ、そんな…」

正直に言えばキリの剣の稽古の相手兼護衛に回された時は心底嫌だった。
どうして王族と血も繋がりも無いどこの国の人間かもわからない少年の
護衛をしなければならないのか。
単に周りからやっかいなものを押しつけられたと感じていたフランクは
キリの言葉を否定しようとしたが上手く言葉が出ずに口ごもる。
それが肯定の意味となってしまったのにも関わらずだ。

「やりたくなかったら上手くサボればいいのに。訓練にもまじめに来るし」

「に、任務ですから…」

「…他の人は何か理由つけていつもサボってきませんよ」

「ええ?!」

呆れるキリが言うとフランクは驚いて声を大きくする。

「まじめですね」

キリが薄く微笑むのを見てフランクは急に自分がとても恥ずかしくなった。
夜盗に囲まれて泣きべそをかいたからでも、キリに助けられたからでもなく、
彼が回り以上に自分の立場や立ち位置を恐ろしいほどに理解しているからだ。
一人で森へ出かけたのも、下手に周りに言付けていっては少なからず自分をよく思っていない兵士が
気の向かない仕事をしなければならないから。
自由に振る舞っているように見えてきちんと状況を把握しているのだった。
自分がどう動けば彼らが嫌な思いや、気分をしなくて済むか、
周りに悟られないような行動をしている。
それに気がついたフランクは急にいたたまれなくなりどんな表情をしていいかわらなかった。
それ以来、フランクはキリへの態度を改め今日、忠誠を誓おうと決意した。






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