太陽が傾きかけた頃、キリはまた城へ戻ってくる。
学院を出ればみなそれぞれの身分に戻るわけだから貴族達や王族の人間は門まで
迎えの従者を待たせていた。
そこでようやく平民と貴族達の差が出るわけだが、
キリにだけは門を出ても非難の目は向けられたままである。
本来なら王族の、しかも女王の血族にそのような無礼きわまりない行いをして
ただで済むはずがないにも関わらず、女王への不満も相まって
この件に関しては城の大臣達も目を瞑っている状態だった。
女王が何も知らない事を良い事にやりたい放題だというのだ。

「殿下、今日もご苦労様でした」

「はあ、どうも」

キリは相変わらず気のない返事でフランクの呼びかけに答える。
彼はフランクがなぜこうして迎えに来ているかを理解していないようだ。
ちゃんと事前に説明しているはずなのだが毎回不思議そうな表情でフランクを見る。

「今日は何をお勉強されたのですか」

「えーと、魔術の歴史とか、そう言うのです」

「楽しかったですか」

「まあ…」

「何か変わった事はありませんでしたか」

「イエ別に」

この質問にはいつも同じ答えだ。
毎回同じなので恐らく毎回代わり無く嫌がらせを受けているのだとフランクは思った。
そう考えると少し胸が痛んでいつも口をつぐんでしまう。
うまい言葉が出てこないのだ。
この日は、快晴で傾きかけた太陽が次第に色味を強くしていくと空もきれいなグラデーションを作り青から赤、紫へと変化していった。
二人はそれから少し長い道のりをゆっくりと歩きながら城へと戻っていく。
本来なら王族は学院から城へ続く専用の道を通って帰るのだが、
キリは王都へ来てから街がものめずらしいと平民達と同じ道を通ってわざわざ遠回りして帰るのを好んだ。
最初は驚いたが本人のたっての希望とあれば従わずにはいられない。
たとえフランクが弱くへなちょこだったとしても皇子を守る盾にはなれるからだ。
護衛も兼ねた彼の送り迎えはいつもこの道を通って行われていた。

「夕日が真っ赤ですね」

「そうですね」

「殿下は…陛下の事はお好きですか?」

「は?ええと、まあ…」

「助けてもらおうとは思わないんですか?」

「?何を助けてもらうんですか?」

「今のその…殿下の…状況とか」

「?別に助けてもらうような状況じゃないですけど」

「でも、いつも…!」

「あー。でもまあ相手が必死になにかしようよ企んでるの見るのは面白いですよ
俺、王族とか貴族ってもっと頭良いのかと思ってたら馬鹿ばかりだし…ってフランクさんも貴族でしたっけ、すいません」

「いいえ!お恥ずかしながら、仰る通りなので…」

事実、学院に通う王族貴族の半分以上が勉学、技術に関しても出来が悪い。
あまりに実力が低いので大金を詰んで学院に進級を迫った王族の子供もいるくらいだ。
しかし学院はあらゆる権力からも侵害されない機関であるため、その子供は停学処分を受けた。
反対にキリは幼い頃からアガタより魔術のあらゆる知識を注ぎ込まれた為に
成績は特に優秀であった。
それもまた彼らの顰蹙を買っているわけである。


「そう言うのには慣れてるし、いいんです」

フランクはそれを聞いて足早にキリの前へ回るとその場へしゃがみ込み
片膝をたてる。
そして頭を下げて言った。

「殿下…僕、いえ、私、フランク・バランドは、あの時よりキリ殿下を生涯お守りしようと決意いたしました。もし、許されるなら私に死が訪れるまで殿下のおそばでお仕えしたいと思っています」

「えっ?!なに…!?頭、頭上げて下さい…!」

「殿下、今私は貴方に忠誠を誓っております」

「うう…なんですか…急に…大体あの時って…?」

「夜盗から助けていただいたあの時です」










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