それからヨハンは、2、3日考える時間がいると、わざわざ王都からやってきた使者を追い返した。
使者達は隣町の宿に滞在していると告げると言われた通りにあっさりと引き返していく。
二人が帰った後はヨハンも、両親もすこしぎこちなさはあったが普段通りに戻りつつあった。

ベアトリスを除いては。


「ベアトリス、いい加減に出てきなさい!」

母親が開かずの扉を少し乱暴にノックしても返事は返ってこない。

「母さん、俺が話す」

ヨハンは、ベアトリスの母親にそう告げると母親は大きく溜息をついてドアを見つめた。
昨夜は、父親が同じように会話を試みたがうんともすんとも返事が返って来なかったので今日は母親が声を掛けていたのだがそれでもベアトリスの気持ちは揺らがないらしい。
お願いねと今度はヨハンにバトンが回ってくるとヨハンはしっかりと頷いてベアトリスの部屋の前にどかりと腰を下ろした。

「ベアトリス」

「…何も言わなくてもいいから聞いてくれ。俺はこの国の王の息子だ。
黙っていて悪かった。でも王になんかなる気はなかった。だから城から逃げてきたんだ。けど、昨日来た奴らは、俺の父親…先代の王の側近で信用できるやつらなんだ。
その二人がわざわざここまで俺を捜しに来たって事は本当に大変なんだと思う」

ベアトリスがヨハンの話を聞いているかどうかはわからない。
布団を頭まで被って眠ってしまっているかもしれない。
もしかしたら耳を塞いでいるかもしれない。
それでもヨハンはさらに続けた。

「だから、こんな俺でも力になれるのなら、俺は王になろうと思う。
ベアトリス。俺が王になったらきっとベアトリスがこの国に生まれてよかったと思えるような国にする、だから」

『わたし、ヨハンにずっとここにいて欲しい』

「ベアトリス」

開かずの扉はきぃと音を立てて静かに開く。
けど、小さな子供一人が通れるか通れないかくらいの細い隙間程度にしか開かず、
ベアトリスの姿は半分ほどしか見えなかった。

「王様になんかならなくていいのに、ずっといてヨハン」

「ごめん」

「ヨハンなんか嫌い」

「うん」

「嫌い」

「ベアトリス」

「嫌い、お城にだってどこにだって行っちゃえばいい!」

ベアトリスは、堰を切ったように大声で泣き出した。
びっくりして父親が飛んできたが今まで部屋からまったく出てこなかったベアトリスが
ヨハンに抱きついて泣きじゃくっているのを目にすると
いくらか安心したように肩の力を抜く。
ヨハンと視線を合わせると肩を竦めて少し困ったように笑った。
それがあやしてやってくれと言う合図であるかのように
ヨハンは、ベアトリスの小さな頭を泣きやむまでずっとなで続けた。

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