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姉は比較的冷静を装うとしていたのだろうと思った。
ウォンネーゼは、この姉の威圧感がたまらなく苦手でこれを向けられる他国の使者達は本当に可哀想だなとさえ感じる。
まわりで警戒する兵士や従者たちになど目もくれず一直線にフォレガータの元へ
来た男は桃色の髪を風に揺らして、
王女の前へ辿り着いたかと思えば不遜な態度で言った。
フォレガータに一睨みされただけで誰も彼もがその堂々たる姿に萎縮すると言うのに、
男はその威圧など微塵も感じていないようだ。
ただ、後ろでおとなしく立っている金髪の子供はいくらか警戒しているようだが
それでも他の大人達から比べれば平気そうに見える。

「息子だと」

「拾い子だよ」

「…本当か?」

「君に嘘はつかない。君の質問にはすべて答える…ただし君にだけにしか教える気はないけど」

礼儀も、常識も何もかもなっていない、
女王候補とは言え王女へのこの横柄なものの言い方、態度。
どれをとっても姉にはふさわしくないとウォンネーゼは瞬時に判断して、
一通りの挨拶や顔合わせが済んだなら姉へ申し出なければなるまいとさえ思った。
だが、それらも次の一言で頭からすべて吹き飛んでしまう。

「君と結婚するのはいいけど条件がある。キリをちゃんと息子として迎える事。それだけ」

言うや否やウォンネーゼは自分の腰に差してあった剣を引き抜いてその切っ先を男ののど元へと突き刺した。
周りの侍女の何人かが悲鳴をあげたがウォンネーゼは構わずに男へ怒鳴りつけた。

「貴様…無礼にも程があるぞ!思い上がるな!」

普段は比較的温厚で争いをあまり好まない彼がこんなにも逆上して怒りをぶつけるなど珍しく、姉であるフォレガータさへ目を丸くしていた。
何よりも腹が立つのはその怒りの矛先である相手の男が少しも動揺していないところである。
そもそも逃げようとしようとしたのならばすぐに首をはねていたかもしれないが。

「…ああ、フォレガータの弟。目元が似ている」

「だから言ったんだって…俺は家に残るって」

「この状況はキリの所為じゃないと思うよ。多分俺だ」

「…尚更悪いねじゃあ」

けろりと言った少年は10〜12歳くらいでまた声変わりもしていない。
ただ、男と同じく状況を理解できているのかいないのかあまり怯える風も見せない。

「ウォンネーゼ、剣を収めろ。アガタ。お前のその条件はわかった。あとでじっくり聞かせてもらう。皆、騒がせたな。出迎えはもう十分だ。そこのお前、私の部屋に何か飲み物を持ってきてくれ」

てきぱきとそれぞれに指示を出すと臣下達はさっきとは別の慌ただしさを携えて四方に散っていく。
しぶしぶ剣を鞘に収めたウォンネーゼは納得いかないとアガタを睨み付けていた。
フォレガータはそんな二人を余所にアガタの後ろに立つキリへと歩み寄る。
今まで散々緊迫した雰囲気の中緊張の色なんて一つも見せなかったのに
フォレガータが目の前で膝をつき目線を合わせると慌ててアガタにしがみついていた。

「驚かせたな。暖かい紅茶でも飲もう。名はなんと言う?」

「アガタ」

「ちゃんと名乗りなさい」

名を聞かれて戸惑う意味がわからなかったがアガタが頷いて見せるとキリは
ほんの少しだけ緊張した体で深呼吸する。



「キルッシュトルテニオ…みんなにはキリと呼ばれてます」



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