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迎えに行くと言ったらその人でなしの弟子は自分の足でこちらに向かうと断ったそうだ。
城の中が少し慌ただしく、正式な発表はまだずっと後になるとは言え、
女王の伴侶(候補?)が表れるとなれば城の総力をあげて迎えなければならない。
先代の王の時など、他国から訪れたものだから街の中を通って城まで来る際には、
沿道からはものすごい歓声が上がっていたそうだ。
ところが今回は顔もろくに知らない、偏屈だとか人でなしだとかとにかく
翁の弟子と言う以外にもあまりよろしくは無い噂の飛び交う男が
自分のその足で歩いてくると言う。
「変わり者なのだ。あまり人付き合いも好まん」
「…そんなものが王として姉上を支えていけるのですか?俺は
姉上にはもっと良い人が」
「ウォンネーゼ。私はアレ以外は、考えられないよ」
きっぱりと言い切るところが実に姉らしい。
姉らしいが政や武術以外に姉が執着するものがあるのが少し信じられなかった。
つまり、すっかり彼氏を家で待ちわびる女の顔をしていたのである。
ウォンネーゼは二人の姉妹よりもずっと自由で、たびたび身分を隠しては城下や、他国のさまざまな街を旅して歩く少し変わった皇子だった。
王位継承権がないのが特に彼の背中を押していたようだ。
赴く街にはたくさんの人がいてさまざまな生き方をしていた。
城の暮らししか知らなかったウォンネーゼにとってはどれもこれも新鮮だったのである。
(あの姉上がそこまで言うのなら、よほど出来た男なんだろうな)
そう考えていたウォンネーゼは、ざわめきの中から翁の弟子を見つけた姉の顔を一生忘れはしないだろうと思ったのだった。
「なんかすごい人だね。城ってこんなもんなの?」
「我が城に訪れての開口一番がそれか」
「まだあんたの城じゃないんでしょう?お父さんとお母さんは元気?」
「けがの後遺症は残っているが健在だ……その子供は?弟子か?」
「ううん。息子」
そう、忘れはしないだろう。
あんなにも恋する乙女の表情をしていた姉の顔が一気に戦場を翔る戦士の顔になったのだから。
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