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「は」
「結婚するのだ、何度も言わせるな。そしてお前も早くしろ」
いやいやいや、とウォンネーゼは首を振る。
姉は、この大国ノグの女王をしている。
両親がとある事件でけがをしてから姉へとその実権が移りつつあった頃、
姉は、こともなげにそういった。
そしてついでと言わんばかりにウォンネーゼにも結婚を勧めてきた。
そもそも、相手も決まっていないはずなのにどうやってすると言うのだ。
頭に疑問しか浮かばず、眉間にしわを寄せていると妹のシャンニードがその様子を見てくすくすと笑っていた。
「姉上のお相手を知ってるのか」
「わたくしは存じております」
「どこの国の方だ」
「翁の弟子だ」
肝心な所を答えたのはシャンニードではなくフォレガータその人であった。
翁と言えばこの国最大の、最低最悪の闇の魔術師と噂され、城中の魔術師だけではなく、国中の誰もが知っている凶悪な人物である。
と、言うのが国中の見解であって、この三姉弟においては全く違う見方をしていた。
特にフォレガータは、翁をよく知っており特に城の魔術師達の言うような
よくない噂など気にもとめていない。
むしろ、そんな彼らの方を軽蔑している風があった。
正式に王位に就いた暁には、彼らを城から追い出すと言っていたが側近達は、
さすがにそれだけはと引き留めているのが現状だ。
「姉上…それはさすがに…!!」
「確かに周りの印象は大事だが時にはそれをはねのける事も必要なのだ」
「兄上、この件に関しては姉上に何を言ってもムダですよ。とっても慕っておられるのだから」
「…姉上に何を言ってもムダだと言うのは今に始まったことではないと思うぞ」
明らかに楽しんでいるシャンニードはウォンネーゼよりも状況を理解しているらしく
それがちょっぴり面白くなかった所為もある。
しかしそれ以上に面白くないのは姉をかっさらって行く(現実には相手が王族へ入る事になるのだが)やつが許せないのだった。
「…その、弟子とやらはどのような男なのですか」
「手紙の一つも寄越さない人でなしだ」
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