城の外壁までたどり着いた青年は自分の身長の二倍も三倍もそれ以上も或る
壁を見上げて大きく口を開いた。
開くつもりはなかったが無意識のうちに口が開いていたのだ。
怖くなったの?と悪戯っぽく尋ねてくる少女に少しムッとして青年は肩にかけた
縄をほどく。
そしてその先に着いたフックをグルグル回して空高く投げるとフックのついた縄は
弧を描いて外壁の一番てっぺんに引っかかる。
体重をかけても外れないか確認して青年は縄を使って壁を登っていく。
護衛の兵士達に見つからないように静かに登っていたが途中で少女の事が気になって
ふと下を覗くと少女は小さく手を振って青年を見守っていた。
正直なところ、可愛い女の子に見送られると言うのは悪い気がしない。
ちょっぴりやる気が出た青年はそのままの勢いで一気に壁を登り切り、
無事に城に侵入する事に成功した。

「じゃあな!行ってくる!」

「気をつけて。兄様と母様は勘がいいから!」

「にいさまとかあさま?」

大きな声は出せないので少し声を潜めたのに少女が無遠慮に声を張り上げたので
青年は慌てて辺りを見渡した。
誰も気がついていないのを確認してふと少女の言葉が引っかかり口の中で復唱している間に少女はいつのまにか消えていた。
少し気にはなったがそれよりも城のお宝をいただくのが先決と青年は
足早に縄を回収して城の中へ無事進入したのだった。
城の中はびっくりするぐらい広くて、廊下なんて家が一軒入ってしまうのではないかと思うほどだ。
外から見ると感じられないものが中から見るとこれほどまでにすばらしいのかと青年は
天井にまで施された細かい彫刻をため息を漏らしながら眺めていた。
城の財宝だけでなく、今自分が触れている柱の彫刻さえ、売り払えばかなりの金額になるに違いないのだ。
ずっとずっと貧しい人達が今にも息絶えそうだと言うのにここに住んでいる人間達は、
これらの恩恵を当たり前のように受けているのだと思うとだんだんと腹が立ってくる。
さっさと宝物を盗んで持ち帰って、自分を待っている子供達に見せてやりたいと青年は自分を奮い立たせて宝物庫へ急いだ。
大体王城にある宝物庫の場所と言うのは、城の奥まったところにあるのが普通で青年は
頭の中に描いた城の大体の地図を広げ、城の奥へと進んだ。
長い廊下を歩いてようやくたどり着くとそこには扉の周りを厳重に警戒している兵士がいた。
彼らは常に周りに気を配りお互いに異常がないかを確認し合っている。
人数は4人。
不意をつければどうにかなる人数だ。
青年は太ももに刺してあったホルダーから小刀を取り出して機会をうかがい、
今まさに飛び出そうとした時だった。

「今行っては見つかるよ。もう少し待ちなさい」

「?!?!??!」

心臓が口から飛び出したと思ったくらい驚いた青年は背後からした声に勢いよく振り向いた。
桃色の髪を揺らした男は驚かれた事に驚いているようで目をぱちくりさせている。

「なっ」

「この時間は小隊長が顔を出す時間だから。もう少し待ってた方がいいよ」

「あんた誰だ」

「魔術師」

青年は薄く笑う男に警戒を強めたが暫くすると男の言う通り、小隊長が状況確認のためか扉の傍までやってきた。
背後にいる男も警戒しなければならないが扉の状況も把握したいと言うのに
計画が狂ってしまったと心の中で舌打ちをしつつも隊長が去って行くのを待った。

「今なら行ってもいいんじゃない。でもここそんなにたいした物はないと思うけど」

「なんで魔術師がこんなこと」

「頼まれたしね」

「誰から」

「オヒメサマ」

男は右手の指を二本立てて青年の肩に当てるとそれ以上何も言わずに去って行った。
他の兵士を呼ばれるのではとも思ったが男は急ぐ様子も無くゆらゆらと窓の外の空を見上げていたので今はさっさと宝を盗んでしまうほうが早いと考えた。
青年は4人の兵士をなるべく殺してしまわないように上手く気絶させ、
兵士の懐から扉の鍵を漁って探しだし、重い扉を人が一人入れるだけ開いた。
中はろうそくの明かりでほのかに照らされてその光に反射して宝石や黄金の剣など
さまざまな宝物がきれいに並べられている。
青年はぼおっとそれを見つめていたがすぐに我に返り、持ち運びやすそうなものを
選んで袋に詰めるだけ詰めた。
自分の体以上に袋に詰めてしまって逃げるときに荷物になってはいけないので
動く時にジャマにならない程度にとどめる。
宝物庫から出て、そっと鍵を兵士の傍らへ置き、青年は大急ぎでもと来た道を音を立てないように走った。




[ 36/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -