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「お馬鹿さんねえ。貴方ここから城までどうやってたどり着こうと言うの?」
「お前みたいなどっかのお嬢さんみたいなやつに言われたくない!あんな城、俺にとっては遊園地みたいなものだ」
「あらそう?手を貸してあげましょうか?」
「結構だお嬢さん」
盗賊だと人目もはばからずに名乗った青年に興味を持ったカントは
やや暫く彼が準備に手間取っている姿を眺めていたがしびれを切らしてそれを手伝った。
縄を結ぶにしても不器用で見ていて苛々するのだ。
てきぱきと縄をまとめ、彼の肩にかけてやってから今度は腰に下がっている
今にもずり落ちそうな剣帯のベルト部分をしっかり締める。
青年は母親がしてくれるような彼女の行動に反論せずにそのままされるがまま
彼女が動きやすいように腕をあげたり服の裾をまくったりしているだけだった。
「はい、これで完璧よ。動きずらくはない?」
「完璧だ。すごいなお前」
「貴方がお間抜けさんだからよ。こんなの誰でもできるわ」
「いや、それもそうかもしれないがあんた見たいな身なりのいい女がこんな事
出来るなんて感心するなって」
「私、こう言うのが得意なだけよ」
カントは汚れたスカートから埃を払って立ち上がると
さあ、と盗賊の青年を促す。
青年はやや面食らっていたが意を決したのか表情を引き締めて少女の後について歩いた。
しかし暫く一緒に歩いていて青年はふとした事に気がつく。
どうしてこの少女は自分の手助けをして、自分の道案内をしているのかと。
「あんた…なんで俺に着いてくるんだ?」
「ちょうどここが私の家までの帰り道だからよ。気にしないで」
「そうか」
「ふふ」
青年はカントがそう答えると疑いもせずに納得して頷く。
その姿にかわいらしさを感じて笑みを零したが、果たして自分の正体を告げたときに
彼はどんな反応をするだろうか。
(裏切ったと私を罵る?それともただ純粋に驚くのかしら)
ノグ国は軍事国家であったがフォレガータが統治を始めてからは
無益な戦争はせず、誰も脅さず誰も侵略せずまたそれらをさせない平和の国となった。
それまでは幾度となくこの城にも血が流れたと聞くが、カントが生きている今の時代にはそんな話がまるで嘘のように人々は笑い、そして生きている。
しかし人と言うものは戦が続けば不満を漏らす癖に、平和が続いてもまた退屈だと不満を漏らす不思議な生き物で或る。
その例に漏れなかったのがカントで彼女は皇女と言う立場を隠しては時々こっそりと
街中を見て回っていた。
その姿がよくウォンネーゼ叔父とよく似ていると母から言われるのもその所為だろう。
「えーと」
「その道は右よ。次ぎの十字路はまっすぐね」
「わ、わかっているってば」
(盗賊っていろんな街に行くのかしら)
不慣れな国で土地勘のない青年だがそれでも自分とは違う自由がある彼がとても羨ましかった。
彼にはないものを自分は持っているかもしれないが
自分の所持しているものが必ずしも自分の望むものではないのもまた羨ましいと感じる要因だったのかもしれない。
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