少年は心に決めました。
何があってもこの人だけは守ろうと。

少年は剣が弱く、体も小柄で、その上泣き虫でした。
それでも決めたのです。

(僕はこの人を主と決めたのだから)


「殿下、おはようございますっ」

「ああ、どうも、オハヨウゴザイマス」

「気をつけて行ってらっしゃいませ!」

「はあ、いってきます…」

歯切れの悪い返事だがそれでも少年は言葉を返してくれるだけで心が充ち満ちていた。
キリ皇子が城にやってきてから3年。
落ち着いた雰囲気の少年はすぐさまに皇子に祭り上げられて
王家の一員になった。
どの王族とも血の繋がりのない彼が周りから非難を浴びないわけがなく、
女王が設立した魔法学院へ毎日通っては嫌がらせを受けていた。
学院内では王族だろうと平民だろうと貴族だろうと平等に扱うと言う決まりがあり、
国や王族などの権力も通用せず、その上キリも特に反論もしないので嫌がらせはますます悪化した。
血は繋がらずとも母親である女王、フォレガータは、特に対策もせず
義理の息子に自分で事態を収束させろと一言言っただけだ。

(陛下は殿下の事がお嫌いなのだろうか)

王として迎えた魔術師のアガタが連れてきた拾い子だと言う話は瞬く間に国中に広がったわけだが、それ以上に闇の魔術師の弟子を伴侶として迎えた女王にも
勿論批判や中傷が相次いだ。
目に見えていた結果ではあるが城の人間は皆沈黙を守り必要以上の事は口にしなかった。
ただ残ったのはそれらの事実だけでどうしてそのような経緯になったのかなどの
説明は一切無い。
それが更に国民のひんしゅくを買っていた。
少年は、フランクと言う名でキリの一つ年上の新米兵士である。
歳の頃が同じフランクがキリの剣の稽古の相手に抜擢されたのはつい最近の出来事だ。
フランクは新米兵士である自分がまさかそんな大役を仰せつかるとは思っていなかったので辞令を受けたときは何かの冗談かと思ったものだ。
何せ剣の腕はからっきし、弱虫ですぐ泣いてしまうのだから無理は無い。
とは言え命令は絶対なわけで、フランクが憂鬱な気分で訓練場へ赴くと
心底やる気のなさそうな一人の少年が剣を持ってぼーっと立っている。
軽く自己紹介をして、基本の動きからお教えするようにと隊長から言われたので
それを実行するとキリはすぐに形を覚え、淡々とこなしていく。
それから違和感を覚えたのは2日後の事だった。
基本はできているのにどうにも動きがぎこちなく、剣が苦手なのかと尋ねたら、
キリは槍の方が得意だと漏らす。
武術としては勿論槍でも構わないわけだから、それならば槍の練習をしましょうと提案したのが最後だった。
剣を槍に持ち替え、次の瞬間には自分は尻餅をつき、キリが槍の切っ先を
自分ののど元へと向けていたのだから。

(キリ皇子は本当はお強いのに、まわりの皆は弱いと思ってる。
あの方が魔術師の弟子だからだ)

全世界共通で言えるのは魔術師は総じて武術を得意としないのが当たり前だった。
魔法が使えるのだから体術や武術を覚える必要がないからだ。
それとは反対に魔法が使えない分武術に長けるのが兵士などになるわけだ。
そしてその中間にいるのが魔法剣士となる。
魔法剣士もどちらかと言えば剣術に重点を置くので魔法をそれほど使えるわけではない。
ただ火や水を『放つ』だけでそれらを応用して術に変換する技術までは持ち合わせていない為だ。




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