そこに一人の少年が流れ着いた。
流れ着いたとはいっても彼がフラッとこの町にやってきただけなのだが、
少年はほんの少し町の人たちと立ち振る舞いが違っていた。
暫く泊めて欲しいと願い出た少年は、その容姿からは想像できないくらいに
剣が強く、賢かった。

「ヨハンの嘘つき」

「なんだ。どっかの物語みたいな事言うなベアトリス」

「昨日森に連れてってくれるって言ったのに!」

「悪かったよ、みんなと狩りに出ていたんだから仕方ないだろう?」

「私の約束の方が先だったよ!」

襟足の辺りでくるくる跳ねる栗毛のベアトリスは、
おおよそ女の子らしいとは言い難い出で立ちで弓矢の手入れをするヨハンの前に
仁王立ちしていた。
確かに彼女とは約束はしていたが、ヨハンにとって町の男達と狩りをする方が
数倍も楽しく、ついつい子供の子守よりも優先してしまう。
今年8つになったばかりのベアトリスが今まで子供だからダメだと言い聞かせてきた
森の散策を親の「8つになったら行っても良い」というわけのわからない家訓のようなもののおかげでヨハンにとばっちりが及んできたのは言うまでもない。
それもヨハンがベアトリスの家に居候しているせいでもあった。

「あー、わかったわかった!」

「!今から行ってくれる!?」

「わかったよ…」

「ヨハンだいすき!」

こんながきんちょに好かれても良い事など一つもない。
うんざりしながらも重い腰を上げてヨハンは、自分の剣を護身用に腰に下げ、
今にも飛んでしまいそうなはしゃぐベアトリスの背中の後をついていった。
町から森まではそれほど遠くは無く、大人ならば10分程度でつく。
子供にとってはちょっとした遠足になるらしく、ベアトリスは母親と一緒に作ったサンドイッチを大事そうに鞄につめて軽快な足取りでどんどん進む。

「ベアトリス、お前あんまりちょろちょろすると狼に食われるぞ?」

「ヨハンが守ってくれるもーん」

「俺は自分の身を守るので精一杯だ!」

「えっ、うそ」

「ほんとうだ」

さっきまで鼻歌まで歌っていたベアトリスが急に表情を変えて、
あたりをきょろきょろと伺う。
そして足早にヨハンの元に寄ってきてヨハンの手を握ってぴったりとくっついてくる。

「怖いんだろう」

「こっこわくないもん!」

二人は暫く森の中を歩いて、やがて開けた場所にくると
空腹を訴えたベアトリスが持ってきた弁当を広げる。
もともとその場所は町の人たちが中継地点にと、丁度良い広さに木を切って広場にしたところだ。
ベアトリスが手渡してくれたサンドイッチをヨハンは豪快に頬張る。

「コレお前が作ったのか?」

「うん。おいしい?わたしヨハンのお嫁さんになりたいの!」

「まあまあだな〜。嫁になるんだったらもう少し頑張れよ」

「せっかく作ったのにー!」







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