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彼女は開口一番に暴言を吐いた。
本来ならば即刻打ち首にされてもおかしくないような言葉ばかりを並べて王を睨みつけた。
けれど王は臣下のすべての動きを止めて黙って聞いていた。
「何しに来たの。私を殺しにきたの。あなたみたいな、人でなしで、ろくでなしで臆病者でなにもできやしない王なんて初めて見たわ!あんなに強くてかっこよかったヨハンはどこへ行ったの、どこへやったの!あなたはヨハンとは違う!」
「ヨハンはそんなに強くないんだよベアトリス。君が言うように臆病でろくでなしで何もできやしない。強いと思っていたのは独りよがりだったんだ。君たちに会ってそれがよくわかった」
「それはよかったわね。愚かな王に国を治められるなんて寒気がするわ」
「そうして君がなんの裏表もなく言ってくれるのが嬉しい」
「あなたを喜ばそうとして言っているんじゃないのよ」
「うん。それでも俺には必要なんだと思う。思い上がらないように」
「どういう意味よ」
「結婚してくれ、ベアトリス。君が好きだ」
王よりも頭一つ分ちいさな少女が目を丸くして、何度も何度も瞬きをしている。
そんな少女の気持ちがよく理解できた周りの臣下たちもぎょっとした顔で表情の見えない王の背中を見つめて悲鳴のような声を上げた。
「へ、陛下!!?」
「うるさい。黙れ。私は王になってからずっと大体の事はお前たちが動きやすいようにと我慢してきた。けどこれだけは譲れない。ベアトリスと結婚する」
「私はするなんて言っていないわ!」
「してくれないと困る」
「あなたが困ったって私は知らない!」
「お願いだ」
少しずつ距離を縮めてくるヨハンから逃げるようにベアトリスが壁へ壁へと後ずさりする。
やがてその小さな背中が石の壁へぴったりとくっつくとヨハンは
追い詰めたベアトリスの頬に片手を添える。
冷たいのかと思ったら思いのほか温かくてヨハンの手は一緒にいたあの頃と少しも変わっていなかった。
次第に両親が生きていた頃や4人で食卓を囲んだ記憶がよみがえってきてベアトリスはついに大きな瞳からボロボロと滴をこぼす。
「ベアトリスが俺に甘いのは知ってるんだ」
「…知らないっ」
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