3兄弟は、二人を王の間へ案内するとその部屋へは入らずにまた一階の広場へと戻って行った。
どうやら子供たちは広場の方が楽しいようでそのお守りです、とキリが手を振って二人と別れた。
部屋へ入るとフォレガータがすぐさまに二人に気が付き奥へと招く。
下とは雰囲気が少し違って豪勢さは残しつつも物静かな雰囲気が漂っている。
やがて立食パーティーだと言うのにカズマとフォレガータは互いの戦術やら陣形やら難しい話を始めるとついには椅子、軍事作戦に用いるシュミレーションのボードを持ち込んで議論しだした。
難しい顔をしているというのに二人はどこか楽しげに見えて、片方が質問を投げかければもう片方から考え付かないような答えが返ってくる。
そうしてやがて白熱しだすといよいよリンは、カヤの外だった。
そっとカズマの隣を離れ、バルコニーへ向かってそこから見える広くて花が咲き乱れる庭を眺める。
庭は花一つ一つが丁寧に手入れされており、ほんの少し心のもやもやが取れたような気がした。

「どうしたの御嬢さん、つまらないの?」

「えっ!?あの、ええと…」

「そこは日陰だからこっちにおいで。暖かいよ」

「はい……」

言われて見ればリンの立っている場所には日はさしておらず、足元が暗かった。
男が座っているテーブルのまわりには、見ているだけで明るい気分になれるような日差しが降り注いでいた。
言われるままに男の前のあいている椅子へ腰を下ろすとぽかぽかとして温かかった。
男は豪華な装飾のついた茶器箱からティーカップを一つ取り出すと
ポットから紅茶を注いでリンへ差し出して、角砂糖とミルクも出してくれた。
男は名乗ることもせず、ゆっくりとした動作でしかし手際よくお茶の用意をするが
その恰好はパーティーに全く似つかわしくないシャツとシンプルなズボンに履き古した茶色の靴と言ういでたちだ。

「ありがとうございます…あの…」

「砂糖は2つ、ミルクが1つでいいんだよね?」

「え?!はい…」

それはリンがいつも紅茶を飲むときに入れる量で男はにっこりと笑いかけると
カップに角砂糖2つ、ミルクを一杯入れてスプーンでかき混ぜてくれた。
紅茶は白と透き通った紅がゆっくりと円を描いて混ざり合っていくとやがて濁った茶色になって甘い香りが立ち込めていく。
どうしてわかったのだろうと考えていると男は椅子の背もたれに体を預けてなにか話すわけでもなくただ庭を眺めていた。
最初はその沈黙が居心地悪かったがやがて一緒に庭を眺めていると不思議とずっとそこに座っていられるようになった。
こんな空間がもし自分たちの王宮にもあったなら、カズマにも心休まる時間が増えるかもしれないとリンは見たことのないこの眼前の花がなんと言う名の花なのか知りたくなった。

(不思議と…落ち着く…あの花ってなんて言う名前なんだろう…)

「あのピンクのは」

「はいっ!」

「あ、ごめん」

「いえ、私が勝手に驚いちゃって…」

まるで心の中を読まれたように男が指をさして声をかけてきたのでリンは驚いていつもよりも声を大きくして返事をしてしまった。
それに更に驚いた男がきょとんとしていたがリンが申し訳なさそうに首を振ってそう言うと男は今見ていた花よりも少し薄い桃色の髪を揺らして目を細める。

「可愛いねえ。あのピンクのはチューリップって言うんだよ」

「ちゅーりっぷ?」

「うん。それからそっちはコスモスと…」

「お詳しいんですね」

「俺が育てた庭だからね」

「あなたが?」

「ちょー頑張ったんだよ〜。手入れこそしてあったけどなんて言うかここの住人が無頓着みたいでね。折角いい場所なのにもうぐっちゃぐちゃ」

「ええと、庭師の方ですか?」

「俺はね……と、俺すんげー睨まれてるけどアレ、君のダンナさん?」

「え?カ、カズマ様…!」

男がくい、と顎をやった方を見ると眉間にしわを寄せたカズマが仁王立ちで立っていた。



[ 23/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -