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いくつかの広場を通り抜けては時々空へ視線を移すと、透明なガラス張りの植物園が見える。
天高くまで育った木々たちは自国では見られないような珍しい植物ばかりでリンは、ついつい歩くのをやめて立ち止まってしまう。
さっさと前に進む女王とカズマとの距離がいつの間にかあいていて慌てて駆け足になり追いついてはカズマに何をしているんだと呆れた声で囁かれる。
それを何度か繰り返した頃、リンはとうとう何かにぶつかってしまった。
壁のような固いものではなくやわらかいそれは、フギャンと声を上げて地面に転がる。
リンは驚いてそれに手を伸ばすとそれはぱっちりとした二つの瞳を向けて見上げてきた。
「ご、ごめんなさい、けがはない!?」
「だいじょーぶー」
小さな女の子は、そう言って小さな手のひらについた砂をぱちぱちとはたいて落とす。
リンはしゃがみ込んで女の子の服についた砂を丁寧に払った。
「カント!だから前ちゃんと見て歩けって言って…っと、すいません」
「いいえこちらこそ…!怪我してませんか?」
「ちょっとすりむいただけだからだいじょうぶー」
「ほ、ほんと!?どうしよう…!」
「ああ、すりむいただけなんで、大丈夫です、気にしないでください」
「で、でも…!」
女の子の後に続いて現れた少年は、さほど外傷がないと見てとると、けろりとした様子でリンの心配も他所に、女の子の頭をグイ、と下げさせた。
「はい、ぶつかってすいませんでした」
「すいませんでしたー」
「そんな、私がよそ見していたのが悪いんですから…!」
女の子と少年は二人並んでぺこりと頭を下げるとリンは慌てて立ち上がり、
二人の頭を上げさせようとした。
少年の方はリンやカズマと歳が近そうな、金髪で整った顔立ちをしている。
それに比べて女の子の方は、赤茶色のふわふわした髪でお互い目の色も顔立ちも違ったが女の子はどこかで見たような気がした。
「どうした?」
「カズマ様」
「キリ、カントどうした?」
騒がしい後方に気が付いたカズマとフォレガータが不思議そうにもと来た道を戻ってくると、リンは状況を説明しようとしたが、その前に小さな女の子が女王目がけて
走って行った。
女の子は女王の足元へしがみつき見上げると言った。
「かあさま、カントがぶつかっちゃったのー」
「げっ、お客さんなの」
「キリ、失礼だぞ。エムシとアガタはどうした」
いやそうな声を上げてカズマとリンを見るとフォレガータはぴしゃりと窘めると人数が足らないのか、あたりを少し見渡してから金髪の少年へ尋ねたが
少年は先ほどよりも抑揚のない声で言った。
「さっきおっちゃんが新しい苗持って来たのでテンションあがりまくりながら土掘り起こしてます」
「今日は土いじりはやめろと言っていたのにあの男は…!」
眉間に皺を寄せて声を荒げた女王にはさすがに王たる威厳が見て取れ、
一瞬空気がぴりっと張りつめた。
カズマが王子と言う立場上、政を行う時もそうだがフォレガータにも確かな風格が備わっていてこれが王なのだと実感させられる。
だが不思議なことに金髪の少年が小さな女の子を抱き上げるとものの数秒で無くなってしまった。
「陛下、カントの手消毒してもら」
「かあさま、だ」
「はあ…すいません」
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