それからベアトリスは3日間、城の牢へ閉じ込められることになった。
いくら顔見知りとは言え、一国の王に刃を向けてお咎めなしなんてことにはできない、国中に示しがつかないと臣下達が口をそろえて言ったのと、ベアトリスがそれをすんなり受け入れたからだ。
それでもヨハンは、せめて期間を短くするようにと臣下たちを説得してようやく3日まで期間縮めさせた。
今の状況を両親…もうすでに自分の親ではないが、ベアトリスのあの優しくて厳しい両親が知ったらなんと言うだろう。
身の回りのことが大体落ち着いたら会いに行こうと思っていたがベアトリスの話が本当だとするならばそれすらも叶わない。
そう思うと心が寂しくなってヨハンは、朝議も半ば上の空で済ませていた。

「ベアトリスの様子はどうだ」

「は、出される食事もきれいに平らげて騒ぐ様子もなく大人しくしているようです」

「そうか」

「恐れながら陛下。あの娘はその…身分が違いすぎます」

「どう言う意味だ」

ヨハンが眉間にしわを寄せて身構えると臣下の男がやや躊躇いがちに目をあちこちへ泳がせる。
ヨハンは普段から穏やかな性格をしているが時折先王に似て独特の威圧感を放つ。
他の兄弟にはない特性を持っているからこそこうして王となることができたのだが、もともと人に厳しく接するのが苦手なところは、彼の弱点とも言える。

「言葉の通りにございます。陛下にはそれ相応の身分の娘と…」

「ベアトリスがどの娘にも劣るなんて思ったことはないぞ。いいか。たとえ身分があったとしても、能力がなければただの飾りだ」

「能力があったところで身分がなければ飾りにもなりません」

「身分なんてものはどうにでもなる」

「陛下」

「頼む。もうわがままは言わないから、これだけは許してくれ」

しゅん、と眉尻を下げるヨハンに臣下はいくらかぎょっとしてなんとか平然を取り繕った。
ここまでにそのベアトリスと言う少女を気にかけているとは思わずこれ以上王をいさめる言葉がまったく頭に浮かんでこない。
それからヨハンは、事もあろうにベアトリスに会いたいと呟いたのでいよいよ臣下の男は頭を下げた。
男はヨハンの下で顔の皺が深くなるほど長く働いているが、王になってからと言うものこんなに情けない声を出したことはない。
王子であった頃も気弱なところはあまり見たことがなかったがどうしてあの娘になにがあるというのだろうか。
男はため息を小さく吐くとわかりましたと答えたあと、間髪いれずにほんの少しの間だけです、と釘をさす。
ヨハンは明かりがついたような表情で顔を上げると跳ねるように王座から立ち上がって男の隣に立った。

「大丈夫だ、ほんのちょっとだけだ」

「本来ならば陛下が赴く場所ではないのですよ…」

臣下の男はあきれ気味にため息をはいて呟いた。



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