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手紙の返事の通り、2日後にはアガタの家へ城から迎えの馬車がやってきた。
馬車に乗っていたのはフォレガータの両親の側近だと名乗る男二人だった。
二人はアガタを品定めするように見つめていたがアガタは別れを惜しむフォレガータに
さっさと行けとだけ告げた。

「手紙を書け。必ず届けさせる」

「忘れなかったらね」

「忘れるな、絶対に書け」

「書いて欲しかったら条件がある」

アガタは初めて子供のように悪戯っぽく笑って自分の唇を指さした。
フォレガータはぎょっとしたがすぐに呆れたように溜息をついて肩を落とす。

「お前…」

「何」

「仮にも私は皇女だ。そんな要求する男は今までいなかったぞ…」

「じゃあ俺が最初でよかったね」

「お前みたいなのを減らず口と言うんだぞ」

人目もはばからずに唇を重ねたのがこれが初めてだったので
迎えに来た側近の男は驚いてアガタに怒鳴りつけた。
少年も少女も、大人の声など耳には届いておらず、済ませると
またけろりとした様子であっさりと別れを告げ合う。
皇女が生まれてこの方、皇女が男性とキスを交わす事も愛を囁き合う事も一度もなかった。
両親や他国の使者が持ちかけてくる結婚の話にだって興味を示さなかったあの
皇女が、まさかこんな森の中に住んでいる追い出された魔術師の弟子と関係を親密にしていたなどと考えもつかないことだ。

「フォ、フォレガータさま!?」

「どうした。さっさと戻るぞ」

「ですが…!」

「早くしろ。私はやらなければならない事が山ほどあるのだ」

馬車に乗り込み、馬を走らせればすぐに城へたどり着く。
そうしたら両親と再会を喜び、今回の黒幕を叩き伏せ、自分が王位につく準備を整えなければならなくなるだろう。
今回の件で母が生きているうちに色々な事を学んでおく必要があると考えたのだ。
アガタの家の中にいただけでも勉強になることは沢山あったのだ、外に出られていればもう少し色々学べたかもしれない。
父が『民の立場になって考えるべき』と言っていた言葉は間違いではなかった。


それからのちフォレガータには弟と妹が生まれ自身は王位に立つ。
アガタからの手紙を待ったが一向に来る気配はなく、やがてしびれを切らして
自ら赴く事になる。
アガタといえば家の近くの道に捨てられていた赤ん坊を拾って育てるが
彼が大きくなり、フォレガータがまた現れるまで手紙の事などすっかり忘れてしまっていた。
その時に落ちた雷に身を竦めたキリは、アガタが初めて女性に嬉しそうな顔をするところを見た。

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