10
急いで手紙を書き、それを城へ届けて貰うとすぐに返事が返ってきた。
事の顛末をしたためた手紙を読んで、ブローム大臣の身柄を拘束した事、
2,3日中には迎えに来る事、両親の安否を伝える内容が書かれてあった。
それとは他にもう一つ、娘を匿ってくれた魔術師への礼状が添えられていてアガタはそれを読み終えると表情一つ変えずにさっさと戸棚にしまい込んでしまった。
「感動が薄い奴だな。国の主からの手紙だぞ」
「どういたしましてって言いながらはしゃいで踊ればいいわけ?」
「そう言うわけでは…」
山羊のポチの怪我は命に関わるようなものではなく、丁寧に治療してやると
痛みが和らいだのか落ち着きを取り戻していた。
自ら庇ってくれたポチの首筋を撫でてありがとうと何度もお礼を言うフォレガータに身を寄せたポチは心なしか満足そうに見える。
それを終えるとせっせとドアの蝶番を直すアガタは、何も言わなかった。
てっきりお前の所為で家が壊れたとか、ポチが怪我したとか文句を言われるのだと思っていたがそれもない。
それどころかまた別の精霊を見つけたのか時々何もいないはずの方へ嬉しそうに話しかけては笑顔を向けるのでフォレガータはなんとなく面白くなかった。
(ポチが大変な目にあっていたと言うのにこいつは…)
眉間に皺を寄せて睨んでいると不意にアガタと目が合う。
アガタは首を傾げて尋ねてきた。
「なに?どっか痛いの?」
「別に…」
「じゃあなんで睨んでんの」
「睨んでなんかいない。太陽が眩しいだけだ」
「あっそう」
そっけなく言うとまたアガタは蝶番に向かってねじを廻しはじめる。
それをただじっと見ているとやはりアガタは時々空に向かって笑顔を向けた。
「おい」
「何」
「さっきからにやにやしているのは精霊でもいるのか」
最後の調整を済ませると斜めに傾いていて閉まらなかったドアは
また綺麗に枠の中に収まった。
器用なものだと感心する反面、それよりも別なところに意識を集中させてしまう。
「何?さっきからもしかしてヤキモチでも焼いてんの?」
「…だったらどうする」
「どうもしないけど。俺はあんたのこと嫌いじゃないよ。…嫌いじゃなくなった」
何?と聞き返そうとしたがフォレガータは、体を硬直させて動く事が出来なくなった。
工具箱へドライバーを閉まったアガタが不意にフォレガータを家の壁へ押しつけて
大きな手を頬へ添えてきたからだ。
皇女と言う立場上、社交の場に出れば男性に迫られる経験が何度できるのでそれなりに度胸もあると思っていたがまさかアガタがそれをするとは思ってもいなかったので頭が一気に真っ白になった。
「王族は、嫌いなんじゃないのか」
「嫌いだよ。大嫌い。でもフォレガータは違うと思う。俺はそれなりに見る目はあると自分でも思ってるんだけど」
「……間違っては、いないな」
親指で下唇をなぞり感触を確かめるようなアガタは少し身を屈めて顔を近づけてくる。
さっきまで見えない精霊に腹を立てていたフォレガータはそんな事はすっかり忘れてしまって自然に顎を上げていた。
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