「人の家で何してんの」

聞き慣れた声が懐かしい。
フォレガータは、視界にその桃色の頭が写ると腹の底から声を上げて怒鳴りつけた。

「ばか者!ポチがあんなにお前を呼んでいたのに、どうしてすぐに来なかった!!」

「…悪かったって。怖かったの?」

「私が恐ろしいのは、ポチが私の為に体にキズを作る事だ!それは…私が受けるべきものだ…」

アガタが突然背後に現れて、魔術師も貴族も驚いて振り向く。
言葉通り突然現れたのでいくらか不意をつかれ、貴族風の男は尻餅をついた。
どんなに急いで来ても町の麓の川からここまで来るのに暫くかかる上、魔術師が差し向けていた精霊がアガタを足止めしている筈だったから尚更に驚いた。
まるで空間を移動してきたかのように少年は二人の背後で男二人を睨みつけている。

「君が翁の弟子?随分とまあ…かわいらしい顔立ちじゃないか」

「お前は見るに堪えない醜い顔だな。顔を焼かれた翁はよく悪魔みたいな顔だって言われていたけどそれ以上に醜い」

「小僧…!」

「フォレガータを狙ってたのお前か。川の精霊を寄越したのも」

言うや否やアガタは、右手を振りかざして目の前で腕を横に振り二人の男の足下に魔法陣を作り出した。
一瞬で円形に光り出した地面からは風圧が上がり、男はその勢いに両手で顔をガードする。
水気のない地面から勢いよく水しぶきが立ち上り二人を覆ってしまった。
魔術師の周りを泳ぐようにしてさきほどの精霊が現れると魔術師は目を見開いた。

「まあ精霊を見る目はあるみたいだな、お前」

『アガタ、もう十分よ』

水しぶきの中に閉じこめられ、空気もなくもがき苦しむ二人を確認するように見つめて
水の精霊が静かに言った。
するとざあざあと立ち上がっていた水の壁は次第に低くなっていきやがて消えていく。
最後に地面に出来た魔法陣が消えたところで魔術師と貴族風の男は酸素を欲して咳き込みながら肩で息をする。
生きていく為に必要な空気を取り入れられ、ようやく命を失わずに済んだと安堵したところにフォレガータが歩み寄る。
皇女はすらりと長い足を肩幅に開き、ぴかぴかに磨き上げられた剣先を魔術師の首元へ突き刺した。

「母に危害を加えたのは貴様か」

「…ッ」

「お前か?」

「わた、わたしはただ、その頼まれただけです!!こいつを雇って、女王を殺せと!」

「フォレガータを殺せって言ってなかった?」

「そ、それも…その…」

魔術師はフォレガータに睨まれると急に早口になってベラベラと話し始めた。
剣を向けられている魔術師がそれを聞いて舌打ちをしたが貴族風の男は更に続けた。

「ブ、ブローム大臣が…」

「ブローム大臣だと?!あの執行官長のブローム大臣か!」

「そ、そうです…!申し訳ありませんでした…!どうか、どうか命だけは…!」

「貴様を殺すつもりなどない。貴様らにはたっぷり罰を与えねばならん」



[ 15/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -