何度かアガタが精霊を使って状況を把握しようとしてくれたが
なにかに邪魔をされているらしくなかなかうまくいかなかった。
結局その日はそれ以上のことはわからないまま時間だけが過ぎた。
ベッドに入って目を閉じても母の身が案じられてなかなか眠れない。
父も母のそばにいるとは思うが彼も忙しい人だからもしかしたら別な場所で
民のために働いているかもしれない。

(わたしは結局何もできないのか)

早く一人前になって、母に代わり女王になって国を治めるために一生懸命働くと決めてからあちこちの国へ使者として自ら赴いていた。
いろんな文化や考え方や価値観を知ってから国の王になっても遅くはないと思ったのだ。
なによりそれは両親の勧めでもあった。
偏った考え方では民をまとめ上げる事などできないと。

「フォレガータ」

「どうした?」

真っ暗闇にうっすらと光がさして声のする方を向くとぼおっとアガタの顔が浮かぶ。
明かりを消してから声をかけてくるのはこれが初めてでフォレガータはいくらか身構えた。
なにか両親についてわかったのかもしれない。

「ちょっと出てくことになりそうだから、誰が来てもドアは」

「出ていく?どうしてだ」

「下流の川が」

アガタが言いかけると家のドアが乱暴に叩かれ外から男の怒鳴り声が聞こえた。
怒鳴る、というよりは叫ぶに近かったがアガタは男達がアガタを尋ねてきた理由をすでに知っているようで冷静に扉へ向かう。
扉を開けて、男達が一斉にまくし立てるのを黙って聞いているとどうやら下流の川が氾濫して、魔術でどうにか出来ないかとアガタに助けを求めにやってきたようだ。
天候は決して悪くないのにどうして川が氾濫したのか、それを確かめる為にもアガタを同行させたいらしい。
こうして何かある度に彼らはこの少年を頼っているのだろうか。
それなのに闇の魔術師と恐れて、蔑んで森の中へ押し込めるように扱うのが理解できない。
これまでもこうして助けを乞うて、実際に助けて貰っても周りの人間達はアガタを、翁を差別し続けるというのか。
簡単に状況を説明されたアガタは、そのまま着替えることもなく半ば引っ張り出されるようにして家を出て行った。

「普通に生活をして、普通に笑って、普通に本を読んで…普通に『生きている』だけだ。なにもしていない」

アガタと出会ってまだ一週間程度しか経っていないが一緒に暮らしてみてわかる。
魔術師だからと日常生活の仕事に精霊を使って楽しようとは絶対にしない。
水を汲むのに家と川を何往復かする。
洗濯物を干すのにも天候次第で、天気が悪ければ部屋の中の暖炉の熱で仕方なく乾かす。
食事も殆どは裏の畑から必要最低限だけを摘みとり必要な分だけ口に入れる。
足りないものは、町まで買い物に行くがそれも自分の足で町まで降りていく。
精霊を使ったのはフォレガータの為に城の様子を確かめた時だけだ。

(使ったと言うよりは精霊に協力を乞うていた。契約してようやく魔術が使える王城の魔術師とは違う。共に生活をしているように)

「根本的に、私たちが考えている魔術師と言うものは間違っているのか」





[ 12/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -