女の子が具合悪そうに頭を抱えているがアガタは、心配する素振りを見せない。
見せたところで彼女がアガタの介抱を快く受けるようには見えなかったからだ。
正体もわからないお互いに心など許す筈もなく腹のさぐり合いを続ける意味は無かったが風の精霊の言葉が気になった。

(時期女王って事は今の女王の娘か)

「私は、フォレガータ・ノグ・ホウヴィネン。ノグ国の第一皇女だ。隣国より視察から帰ってくる途中で…不逞の輩に襲われた。私は護衛の者に助けられた。先ほど城から知らせがあって…今は城へは戻るなと」

「なんで?」

「わたしも、城で何かが起こっていてそれに母上が巻き込まれていると言う事しかわからない」

「どれくらい匿えばいい?」

アガタが溜息混じりに尋ねるとフォレガータは勢いよく身を乗り出す。

「匿ってくれるのか?」

「下の町の人たちに頼んでおく」

「…できれば、ここに匿って欲しい。下手に人の前に出ると…どこからか私がここにいるのがバレてしまう」

「いやだよ、隠れたいなら森にでも隠れていれば」

そうアガタが吐き捨てるとフォレガータは、やや暫く考えて座っているベッドのシーツを力強く握りしめる。
ずっと山道をひたすらに逃げ続けて疲れていたのでついつい言葉が荒くなる。

「私はこの国の皇女だぞ、その私に対してそんな対応を取ってこの国にいられると思っているのか!」

もう一度言うとフォレガータは疲れていた。
だから普段は滅多に口にしないような言葉をついつい吐いてしまったが
アガタはこの一言で腹をくくったらしい。
眉間に皺を寄せると雰囲気ががらりと変わり、今までかなり譲歩していたのだと言うのがわかった。

「別にお前の為にここにいるんじゃない。翁がここにいたから俺はいただけだ。俺は翁ほどこの土地に執着はしてないし、出て行けと言われれば出て行く。誰も彼もがお前ら王族の言う事を聞くと思ったら大きな勘違いだな、皇女様。俺が気にくわなければお前がさっさと出て行け。そこは俺のベッドなんだよ」

雷に打たれた経験など無いが、フォレガータはまさにその時のような表情でアガタを見つめた。
こんな風に返答してくる人間はこの国に一人もいないだろう。
諫めてくる侍女や、大臣だって腹の底ではどう思っているのかわからないがもう少し遠回しに言ってくるものだ。
敵意を向けられた経験は何度かあるがそれはあくまで国外での話であってノグ国では無い。
厳しい母親である女王ですら言葉の端にはどこかフォレガータを案じる風なところがあるのにアガタの言葉のどの部分にも人の正の感情が伺えなかった。

何より彼は権力と言う見えない力に屈していなかったのだ。
彼の師匠である翁のように。

「…すまない、言い過ぎた。頼むここに匿ってくれ今…は…」

「!」

フォレガータは、酷くなっていく目眩に耐えきれずなんとか言葉を絞り出して
ベッドへと倒れ込んだ。
苦しそうに顔を歪めて気を失ったフォレガータに溜息をついてアガタはぐちゃぐちゃになったタオルをフォレガータにかけなおしてやるといつも座っている使い古された木の椅子へと腰掛ける。

(匿えって事は追っ手も来るって事だろ。面倒なの連れてくるなよ…)

女王が『何か』に巻き込まれて、時期女王であろうこの少女に隠れていろだなんて、どう考えても女王は何かから攻撃を受けているに違いない。
城の魔術師は何をしているのだろうと考えたが一度もお目にかかったこともない人間の事を思い浮かべるのがバカバカしくなってすぐにやめた。
身の安全の話で言えばここは確かに安全なのでアガタはそれについては心配していないがそれよりももっと重要なのは。

「…こいつ、どんくらいここにいんの…どんだけ食うんだろ…」

元々翁もアガタもそれほど食に感心が無かったので他の人間の食事の摂取量と言うものが掴めなかった。








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