「白が攫われた?!」

「うん。変な…執事とか言う奴に」

雪原に立つ大きな木の枝の一つに、灰色かかった色の大きなフクロウが1羽だけ
とまっていた。
フクロウはくちばしをカチカチと鳴らしながら人間の言葉を発している。
万緑が悔しそうに口ごもるのを頭上から眺めるフクロウは
驚いたことにその時の状況を見たわけでもないのに、大体の事を察していた。
十中八九、落ち込んでいる青年は白を助けるどころか手も足も、
そもそも行動する間もなく目の前で攫われてしまったに違いない。
しかし、あの白が攫われたとなると事は急を要する。

「執事が出てきたのなら仕方ない…。だが白を連れて行かれたのは痛手だな」

「継府もなんかすげー異様に焦ってる。魔物を退治する主力がいなくなったって走り回って…」


「それだけじゃない。白は『忘却の王』だ。あと二人、王が揃えば世界が終ってしまう」

「…は?なに言ってんだよ、ついこの間『忘却の昼下がり』があったばっかだぞ?
アレでどんだけの被害があったと…!」

「『忘却の昼下がり』は始まりだ。次に『悲観の夕べ』がきて『混沌の夜明け』の後、
『世界の終焉』がおこる」

もともと、フクロウとよく話していたのは白だったので万緑にはこの
フクロウがどうにも信用ならなかった。
フクロウはいつの頃からかこの小屋に近い一本の木に降り立つようになっていた。
魔物ではない普通のフクロウなのだがどうしてか人間の言葉を操り、
白の話し相手でもあった。
白も初めは警戒していたようだが何度か会話するうちに打ち解けたらしい。
よく、直玄の事を相談していたのを万緑は見かけていた。
忘却の昼下がりの事もこのフクロウが教えてくれたことだった。
この世界において、『忘却』、『悲観』、『混沌』は厄災にあたいする。
それは自然災害であったり、超常現象であったりとさまざまで『忘却の昼下がり』は超常現象の類であった。
突然、人間が消滅してしまったのだ。
昼間の空が黄色い光に照らされて更に明るくなったかと思うと、屋外の外にいた人間は
すべて、文字通りに消えてしまった。
外のテラスでお茶をしたあとや、庭を掃除していたあと、仕事道具を修理していたあとなど
人がいた痕跡だけを残して、人間だけが跡形もなく消えた。
とは言え、フクロウが継府へ事前に情報を提供してくれていたおかげで、
被害は半分ほどで食い止められたがそれでも、
伝達が行き届かなかった地域などには犠牲者は出てしまった。
万緑や白の仲間はその連絡が行き届かなかった地域にいたため、
ほぼ全員犠牲者となってしまい、取り残されたのは仲間のうち二人だけである。
継府が白や万緑たちの呼びかけにすぐさま答えたのも被害が半分程度で収まった要因の一つだった。
もし、継府が聞く耳を持たなければあるいは人類は全滅していたかもしれない。

「大体、なんでお前がそんなこと知ってんだよ?ただの鳥だろ?」

「儂はお前たちよりも長い時間を生きている」

「前にも同じことがあったのか?」

「言い伝えが残っていただけだ。儂らフクロウの間に」

フクロウは少し落ち着きなく首を回しながら答えた。

「つまり、白が原因で『忘却の昼下がり』が起こったのか?」

「正確には白が忘却の王になったことで起こったと言った方が正しい」

「???」

万緑は首をひねりすぎて今にも首を痛めてしまいそうなくらいだった。
フクロウの言葉は時々…と言うかほとんどが理解に苦しむのもばかりだ。
よくも白はこのフクロウと会話が成立していたものだ。
それはどう言う意味なのか尋ねようとした万緑だったが
フクロウはそれでこの話は終わりだと言わんばかりに大きな羽を両に広げて
止まり木から離れてしまった。
フクロウの様子がどこかおかしかった気がするが万緑もそれ以上尋ねても
理解できる自信がなかったのでため息を一つ吐くと温かい暖炉の待つ小屋へ
向かうことにした。







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