未来の王、そう風の王が言っていた。


「話は、わかりましたけど、俺の帰るとこはノグです、もし
俺がここにこなければ助けて頂けないのなら、いいです。自分でなんとかします」

ぐいぐいと珈琲をスカラが勧めてくるのでキリもタクトもその好意に甘えて暖かいうちにすすった。

「でも魔女は危ないのよ?」

「はい。よく考えたらコレは俺の問題でみんなに助けて貰うようなことじゃなかった。
最初からそうだったんです。だからいいです。お時間とっていただいてありがとうございました。話も聞けて良かったです」

「拗ねたのか」

ユルドニオ王は珈琲には手をつけず、付け合わせのクッキーをモリモリ口に運んでいる。
キリはソーサーにカップを置いてから首を振った。

「違います…。魔女が危ないって事は手助けしてくれる人全員に危害が及ぶって事を
忘れていただけです。大事な事なのに忘れて甘えてました。そういうことです」

「別に、ちょっとくらいなら平気なんだぞ」

「イエ、いいです」

「…馬は使うか、使うなら」

「いえ、勿体ないのでいいです」

「………」

「お前の負けね!素直に心配だから無条件でお手伝いしますって言ったらどう?」

「…母上」

年下にむっすりとした息子をスカラが笑い飛ばす。
ぽかんとした表情を横目にタクトは我関せず、と久しぶりに上手い珈琲に舌鼓を打っていた。

「睨んだって、ダメよ。ねえ、キリ皇子。本当にこの子貴方の事心配しているのよ。
王座に付けだなんてね、やっと貴方がここに来てくれて嬉しいからもっと話したいけど、ノグに帰ってしまったらまた暫く会えないでしょう?寂しがっているのよ」

「えっ」

「母親は違うかも知れないけれどたった一人の弟ですもの。それとも
キリ皇子はこの子が迷惑かしら?」

「いえ、そんなことないです。でもなんて言ったらいいか…」

「今まで兄弟だって名乗り上げもせず家族のいない寂しい思いをさせたくせに、都合がよすぎる?」

「そんなのは思ってません。そうじゃなくって薄情かもしれないですけど俺の親はアガタだけだし母親はフォレガータ女王陛下だし、弟と妹とが俺の家族なので…えーと」

「幸せか」

「俺は幸せだと思ってます。きっとどんなに貧乏な家だったとしても、周りの人から邪険にされても。だからユルドニオ国王陛下が俺の兄だってわかったとしても多分、『近所の話しかけてくれるお兄さん』ぐらいにしか…」

「やめて…キリお願いだから…相手は国王陛下だから…!」

ここに来てキリの世間知らず、怖い物知らず発射3秒前。
タクトはいよいよまずいと感じ、慌てて言葉を遮った。
それに追い打ちを掛けたキリにだって事実だし。の言葉に
このぶっとんだ常識知らずのマナー知らずも良いところのお坊ちゃま
(正確には皇子だが)をぶん殴ってやれたらとさえ思った。
いくら兄弟だとわかったからと言えども相手は一国の主。
機嫌をそこねてそれこそ一つ間違えれば戦争なんて事になりかねないのだ。
そのところを全くキリはわかっていない。

「訂正しろ」

「すみません…」

ドスの利いたユルドニオ王に無条件で降伏した。

「『優しいお兄さん』だ」

「えっ」

「それでは、キリ皇子、貴方のコーツァナ行きの無条件支援を致します。わたくしの事は叔母様と呼んでね?」

予想外の答えが王から返ってきたのが合図とばかりにスカラの最終採決が下った。

「でも」

「まあ、甘えなさい。息子が甘えてくれないからわたくしつまらないのよ。甥くらい甘えなさい」

「あっハイ…」

「それじゃあさっそくお部屋の準備をしなければいけないわね」

準備するのが楽しいらしくスカラは周りに花でも飛び散っていそうなくらい嬉々とする。
しかし城外の宿には自分達を待ってくれているサミレフ達がいる。
彼らをそこに置いて自分達だけ豪勢な扱いを受けるわけにはいかない。

「あの、宿に友達が待ってるので俺達そっちに泊まります」

「それではその子達も連れてらっしゃい。お客様は多い方が楽しいのよ」

「えええ〜…」

「心配するな。部屋ならいくらでも余ってる」

ノグに匹敵するほどの大きな城の部屋が足りなくなるなんて心配はこれっぽっちもしていない。
二人が不安に思っているのは、まだ短い間しか一緒に過ごしていない友人達が
なにより上流階級の流儀を知らない田舎者だからだ。
皇子だとわかったキリにでさえあんな態度なのだから王だからと言って
態度を改めるとは到底思えない。
こめかみを揉んでいると素行の悪さなど気にするなと王が察してくれた。

「時折商人達とも話をする。確かにやつらは口は悪いが中身まで悪いわけじゃない」

「わかりました、ええと、それじゃあ、お言葉に甘えて…」

「それでは早急に浴場の準備もさせましょう。それからお腹がすいているわよね?」

「ああそうだ。好きなものを言えよ。作るから」

「エッ」

「なんだ。大体のものは作れる」

「誰が」

「俺だ」

どこの国も王は自分の口にするものを自分で作る人種なのだろうかと
キリとタクトは首をひねった。




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