城壁の煉瓦には星の文様が施されていて、門番の兵士が身につけている
鎧や武器にも同じように装飾されてる。
二人は暫くは面倒な手続きに待たされるのだと思いながら門番へ王への
謁見を申し出たがなんともあっさり中へ通された。
それどころか「ノグ国のキリ皇子ですね」などと言い当てられ、二人はぴしりと警戒したが
門番は慌てて「上からそう聞いておりました」と機嫌を損ねられたと勘違いをして
必死に取り繕うのでキリはサミレフの言葉を思い出した。

「…ユルドニオ王は魔術師…でしたか」

「そうです。ですので皇子がいらっしゃったら丁重にもてなすようにと仰せつかっておりました」

「そうですか、ありがとうございます」

王に伝わっているのなら話が早い。
門番に礼をして城の中に進むと城の柱、壁、ドア、天井、廊下、照明に至るまで
兵士の鎧や武器にあったのと似たような星の装飾でびっしり敷き詰められている。
廊下を歩くと足の圧力で床の星がちかちかと光った。
まるで夜空を歩いているような幻想的な光景に二人はほーと口を開けながらゆらゆらと歩く。
城の広間にたどり着くとひときわ豪華な服装に身を包んだ男が一人ぽつりと立っていて
二人にゆったりと一礼する。
ただ短くご案内します、と呟いた声はとても澄んでいて辺りの静寂と一緒に消えていった。
キリとタクトはああ、とかはい、とかいくらか気圧され、それ以上何も言えずに
さっさと踵を返して進んで行く男の後ろを黙々とついて行く。

「すげえ…」

「うん」

本当に無意識のうちにそう零していた二人は、プラネタリウムのような雰囲気に夢中になっていて、いつの間にか謁見の間の扉の前にたどり着いていた。
案内してくれた男はこちらです、と一礼し横へ移動し、少し頭を下げたまま
すすす、と衣擦れの音を立ててやはりそれ以上は会話もせず、もと来た廊下を歩いて行く。
いるまでもこの夢のような場所にずっと佇んでいたかったがキリは、その誘惑を振り払うかのようにかぶりを振って扉に手をかけた。
ぎいと音がしたが扉は見た目以上に軽くあっさりと部屋の中に吸い込まれていく。
床はぴかぴかに磨き上げられていて壁や天井までも映り込んでいるが夜の色一色に包まれ
星の模様がきらきら光っている。
扉から伸びる赤い絨毯の先には壇上があってその真ん中に大きな玉座が置かれていた。
玉座に人が座っており、その傍らにもう一人女性が立っている。

足を一歩踏み入れるとコツ、と靴の音が鳴った。

「よくぞいらっしゃいました。ノグのキリ皇子。さあ、こちらへ」

そう言った女性はゆったりとした淡い黄色のドレスに身を包んでいる。
部屋に響く淡い声からは年齢が感じられたが近づいて行くにつれ、少しゆったりとした体つきにも関わらずその容姿は全盛期の美しさに劣らず若さを保っていた。
そして玉座に座っているユルドニオ王の顔がはっきりと見える距離まで近づいて
キリもタクトも唖然とした。
金色のまっすぐに伸びた髪が首を傾げるとさらりと揺れ、玉座の下に跪く二人に向けられる緑色の二つの瞳がじっと観察するように向けられる。

「…キリと同じ顔……」

「は……」

驚いているのは二人ばかりでユルドニオ王も横に立っている女性もすべてを知っているかのように落ち着いている。
ただちょっぴり女性の方がはしゃいでいるようだった。

「まあ、本当にそっくりねえ?」

「母上…はしゃがないでください…」

「あら、お前だって嬉しいくせに。何を澄ましているのですフィオルディリアム」

「…威厳と言うものがあります」

「弟の前でそんなもの取り繕ってどうするの」

「おと、うと?」




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