ユルドニオの国壁を越えて、キリ達一行はぞろぞろと連れだって
宿屋を目指した。
キリとタクト以外は大きい町に住んでいたとは言え、これほど規模の違う都市に
来た経験もない、いわゆる田舎者だったのでほとんどが観光気分で年相応にきゃっきゃと
はしゃいでいる。
サミレフも最初は引率の先生のようにこまごまと喝を入れていたが
やがて我慢しきれなくなったのか自分もそわそわしたかと思うと一緒に騒ぎだし、
今では収拾がつかないくらいだ。
王都の暮らしになじんできたキリとタクトも覚えのある彼らの興奮についつい頬を緩める。
ガリヤが言っていた通りユルドニオの人々には金髪が多く、どこを見渡しても金、金、金だ。
稀にぽつぽつと少年達のように黒髪や茶髪が混ざっているが
そういう人々は人種が違ったり、国外から来た人達だ。
キリはなんだか不思議な気分になりながらもノグとは文化の違うこの国の様子を
ぼーっと眺めてみた。

「ノグもでかいけどここもでかいな…」

「そうだな。なんか…いろんなランプがいっぱいあるし…アッ!タクトアレ!杖じゃない!」

「え?ああ、うん…?」

急にきらりと目を光らせたキリはひとたび好みの品を見つけると足早に走って行く。
さっきまで大人しかったはずのキリが普段あまりあげないような声で言う。

「わ〜!いろんな絵がいっぱい有る!」

「おい、キリはしゃぎすぎ…」

杖の並ぶ店の隣には薬草、その薬草が置いてある店の隣にはローブ、などなど。
どこもかしこも魔術師御用達の道具が所狭しと並んだ、古めかしいがその歴史が感じられる店が軒を連ねており、
目につくものすべてに興味を引かれ、珍しくはしゃいでいるキリに
タクトも珍しく、

引いた。


「タ、タクト!!水晶玉!これ!見てよ!うわああ…!」

「ええい、落ち着けちびっ子か!」

「あだっ」

手刀を頭に食らわせてサミレフが正気にもどす。

「全く。当初の目的を忘れるな馬鹿者ォ…」

「あああ、皇子様になんてことを」

「って言うかソレ誰の真似サミレフ?」

「俺チビじゃない…」

腕を組みふんぞり返るサミレフを不安げに見つめるラビ、見当違いの疑問を投げかけるナウラとブスくれているキリを見てタクトはふむ、と隣にいたナディムに尋ねる。

「なあ、お前らの大将っていっつもあんな扱い?」

「まあ通常運転かな。キリもあんまりこう…皇子様って感じしねーな。外見以外は」

「イケメンだろ。やんねーぞ」

「心配するな。俺は女が大好きだ」

「俺もだ」

真顔で何を言っているのか不意に寒気がしたキリはげっそりしながらその
会話が信じられないと言う風にうめいているとサミレフがキリの肩に手を置く。

「お前の友達、なかなかやるな」

「ナディムって怒らせると怖いタイプだけど、タクトもだろ?」

「うん、タクト怒ると怖い」

「あっちの方がなんか皇子様って感じすんな。雰囲気が」

「お前そういうこと言うなよ!キリが落ち込むだろ、事実でも」

「そういうお前が一番酷いぞラビ」

とどめのラビの言葉が一番効いた。
皇子に固執した事はないがあざ笑われる事はあってもこんな風に
冗談の対象になるのは滅多に無い。
王都の魔術学院のクラスメイトよりも一緒にいる時間は短いはずなのに
ずっと昔から隣にいるような不思議な気分だ。
生まれて初めて、タクト以外の人間と過ごして楽しいとキリは感じていた。

「さ、冗談はさておき、お前らさっさと城に行ってこい」

「ああ、うん」

「?どうした、急に元気無いな」

ナディムが尋ねるとキリは少し言いにくそうにモゴモゴと口を動かす。

「…もう、帰る?」

顔を背けているが視線だけをちらりと向けてくるキリに一同が目を見開く。
そしてお互いの顔を見合わせると一斉に集まった。

「なに!この人!可愛いんですけど!?!?」

「そう言うのやめてよ!寂しくなるじゃん!」

「いかねーから、まだいかねーから安心して行ってこい!」

「あっはっは、なんか最初はネコみたいなやつだなと思ったけど懐かれると嬉しいな〜」

「今日の晩飯何がいい?俺らおごってやるよ!!」

「キリが成長した…」

「ちが、やめろってば、なんだよ!ちょっと聞いただけだろ!」

わあわあともみくちゃにされたキリは少年達の輪からなんとか抜けだし、
タクトを急かして乱暴に撫でられぼさぼさになった頭のままぷりぷりと
ユルドニオの城へ向かった。



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