コーツァナの王は魔女が魔術師を連れ帰ったと聞いても目を伏せて黙認した。



黙認したと言うよりは強大な力を持ち、その恩恵でノグへの攻撃を決めたので魔女へ命令を下せないのである。
世界のトップ三国の内の一国とは名ばかり、殆どノグとユルドニオがその実権を握り、
コーツァナはその影に隠れながら威厳を保ってきた。
三国はさほど交流がないのにも関わらず、二国はまるで口裏を合わせたように肩を並べて行動する。
5年に1度の三国会議では口を揃えて民の為民の為と二人の声を聞くだけでもコーツァナ王は苛々していた。
自分よりも若い王が活躍し良王ともてはやされるのが我慢ならなかった。
どんなに歳が離れていて経験を積んでいても才の前にはそれらはすべて霞んでしまう。
それに加えて自分に政治を行う能力がきわめて低いこともあって
コーツァナ王は毎日のように握り拳を作り、机にたたきつけていた。
そんな時に現れたのが魔女である。
魔女は弟子を一人従えてコーツァナ王の前に現れると世界が欲しいかと尋ねた。
初めは話が理解できずに眉間に皺を寄せてばかりだったが魔女の弟子が淡々と
自分達の力の大きさを語り、それを利用して他の国を従えさせればいいと説き伏せてきたので
能力の低いコーツァナ王は腹の底に沈んでいたはずの欲望が浮き上がり次第に表情を緩ませていった。
臣下達はあまりに急な話に誰もが首を横に振り、必死に王を諫めた。
しかし次の言葉を発する前に彼らは一人残らず息絶えた。
魔女の弟子が王に逆らう者は必要ないと殺してしまったのだ。
流石の王もこれには肝を冷やし玉座から転げ回ったがこれだけの力を持ちながら
魔女も弟子もコーツァナ王に頭を垂れた。
そうして王の前で誓ったのだ。

『我らに死が訪れるまで、あなたに従います』

膝をつき、そう宣言した二人は契約の証にと王に金色のそっけない装飾の指輪を贈った。
あの恐ろしい魔女が、ノグでもなくユルドニオでもなく自分にその言葉を述べたのだ。
わずかに身が震えていたが恐怖では無く、歓喜の震いでコーツァナ王はすぐに二人を国の魔術師に配した。
ようやく、自分が日の目を見る時が来たのだと、そう実感したのだった。
魔女は残酷で非情であったがコーツァナ王はそれにも目を瞑っていた。
魔女が気に入らないと殺す相手は大概がコーツァナが目障りだと感じていた人間が
殆どだったからだ。
口を出さず、手をださずとも魔女がそれを実行してくれたおかげでコーツァナ王が
汚れる心配がなかった。
自分達の都合の良いように動くようになった国政に整った頃、魔女は急に出かけると言い出した。
王は魔女が他の国に目移りしたのかと心臓を跳ね上がらせたがそれ以上のことを言ってのけたのでも神が自分を見守っているのでは無いかとさえ、思ったほどだった。

「ノグの東の魔術師を連れてくるわ」

「東の…女王の夫か!」

「私、あの子が好きなの。よくもわからない小娘に取られていただなんて腹が立って仕方ないわ」

「ノグの女王の夫は確か…闇の魔術師の弟子だったか?」

王が尋ねると魔女は少し嬉しそうに笑った。

「そうね。国の戦力と考えればあの子がコーツァナへくればノグの力は格段に衰える。貴方にだってそう悪い話じゃないでしょう?」

魔女は笑いながらそう言った。
コーツァナ王にはもはや何が正しいのかとかそう言う思考さえ止まっていて
魔女の言葉が頭の中にがんがんと鐘が鳴るように響いているみたいだった。

「それではそのように手配致します、アルマンディン様」

「アガタは鋭いから気をつけなさい」

「わかりました」

いつも魔女の傍らにいる弟子の男はフードのあるローブを着ていて誰も顔を見た者はいない。
コーツァナ王も例に漏れず、時々見える男の緩く歪む口元の印象しか無かった。
弟子の男は恭しく頭を下げると音も立てずに二人の前から姿を消す。
温度のない水が足元に溜まってコーツァナ王は、上手く身動きをとれなくなっている気分になる。
じわりと感じるそれがなんなのかわからないままコーツァナ王はただ
二人の恩恵が外に削がれないように、しかし自分の威厳を保ったままを維持して
必死に取り繕っていた。






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