「お前ら金あんの?ユルドニオにつけば結構良い馬がいるらしいんだけど…」

「俺ら馬乗れない」

「…は?マジで?ノグって軍事の国だろ?なんで乗れないんだよ」

「軍事って言ったって、兵士ぐらいしか乗馬はしねーよ。そりゃ商人の人なんかは乗れるみたいだけど…」

実を言えばタクトはただ走り回る程度ならば乗馬の経験があった。
もともと田舎に住んでいたので荷物を運んだり隣町にお使いに行くときなんかは
よく馬にのっていたものだ。
ただし、キリに関しては山に住んでいた癖に乗馬経験は皆無だ。
皆無と言うよりは馬との相性が悪いらしく城に来てから何度か訓練していたものの、
いつも振り落とされる。
世話をしているときは良く懐いてくれていた馬もキリが背中に乗ると途端に暴れ出すのだ。
その度にキリがぶすくれるのでタクトは自分が乗馬が出来るとはついに言えずじまいである。

「だからさぁ、こいつの体力早く戻して精霊にバビューンって運んで貰えればさ…」

「俺を殺す気か!」

「オトコノコは体力が第一だよ、キリちゃん」

「出来るんならそうしてほしいな。お前達を無事にユルドニオまで届けるには囮ぐらいしか浮かばない。俺ともう一人とでお前らのフリをして魔女をだまくらかすしか方法がないからな。とはいえ長いこと引っかき回せる自信がないから」

サミレフはナウラが持って来てくれた水をこくこくと飲みながら言う。
タクトはふと首を傾げた。

「『ユルドニオ』まで?コーツァナまでじゃなく?」

「馬鹿。ユルドニオからコーツァナの間の事ぐらいはお前らでなんとかしろ。
そこまで怖い目に遭いたくない」

「あ、ハイ」

「それにユルドニオの王様も四大魔術師に次ぐくらいの魔術師だって聞いたし
事情を説明したらもしかしたら助けてくれるかもしれないぞ。相手が相手だしな。
って言うか今はそこに賭けるしかない」

エラーといい、サミレフといい、年齢もそれほど違わないと言うのに考え方がとても大人だった。
こうして話していると少年達がサミレフを大将と慕うのもよく分かるし、
何より年上の兄のような気分になってくる。
一応忍びで来ている旅だが、メルンヴァではもう素性がばれてしまっているし、
ここで魔女が自分達を探しているのはその辺りで情報が漏れたのかも知れない。
いや、メルンヴァだけじゃなく他のところかもしれないし、魔女が独自の情報網で
探し当てたのかも知れない。
たかだか弟子で子供の自分達がアガタを助けに来ていることを知ったとしても
強力な魔力を持つ魔女が目くじらを立てて追いかけ回したりはしないだろうと
心の隅でタカをくくっていたのもあってかこれまでの道中さして
魔女の追跡など考えようともしなかった。
そんな甘い考えをサミレフもエラーもどこかで感じ取っているらしく二人よりも
深刻な顔で真剣に考えてくれているのだ。
その事実に気がついた二人はようやく自分達が置かれている状況がいかに深刻なのか
気づかされた。

「綱渡りだなぁ」

「今までのお前らが甘すぎなんだよ。なんで無事だったんだよそもそもそれがおかしいぞ!」

「そんなの俺達に言われても…」

「あ、サミレフ、人が戻ってきた」

「終わったな」

耳をすますまでもなく、人々の声がまばらに聞こえてくる。
薄暗く、人の往来も少ない路地にもちらほらと足音がするようになった。
二人分の頭を巻く布を持って来て、キリとタクトを無理矢理床に座らせ
ぐるぐると頭へ巻いていく少年は手先がとても器用だった。
慣れた手つきで巻き終えると最後のおまけにとでも言いたげにぺしっと頭を叩かれた。

「うん。どっからみても金髪とかわかんないな」

「俺らにはやってくんねーのに、こいつらの頭は巻くのか、ナディム」

「お前らは自分で出来るだろ」

「愛が足りない」

むくれたサミレフを余所へやって、ナディムと呼ばれた少年は
二人につけ心地を聞く。
キリもタクトも初めて頭にこんなものを巻いたので少し違和感はあったが
不思議と重さを感じなかったのでただこくりと頷いて見せた。
人の行き来が途切れるのを見計らって外へ飛び出した少年達は
さっきの炎の精霊がいないか辺りを見渡しながら二人を宿屋まで連れ戻してくれた。
ついでにと何故か彼らもその宿に一緒に泊まると言い出したのには驚いたが
一つの部屋にわらわらと集まってこんな風に過ごす機会が無い二人にとっては
貴重な体験であった。
特にキリは何から何まで目を回しそうなくらいびっくりする事ばかりな上、
元々疲れていたのも相まって一番最初にぐーすか眠ってしまった。
それなのに一番最後に起こされて眠気眼をこすって起き上がった時には
タクト以外の全員がすっかり身支度を済ませていたところだった。









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