「やばい、アガタがそんな事してたとか信じられないんだけど、
信じられないんだけど理由がなんとなくわかる気がする」

タクトはちろりと親友を盗み見たがキリはその視線に気づくことは無かった。

「巫山戯んなお前ら。なら俺と替われ。お前がここにいろ。俺がアガタ様の傍でお仕えする」

「サミレフ〜。またそんな事言って」

「うるさい、大体俺はこんな不良の大将なんてやるつもりはないんだ、
お前らが担ぎ上げるから仕方なしにやってんだよ!」

「だってサミレフが一番ぴったりだから」

サミレフの仲間は呆れたように言ったがサミレフは至極まじめな顔で首を横に振った。
気性、考え方、人を惹きつけるナニかそれら諸々を考慮すれば誰でも
サミレフを大将にと口にするだろう。
喧嘩ッ早い癖に周りをよく観察しているし相手の気持ちも汲んでやれる懐の深さ。
それらをいっぺんに持ち合わせるなどなかなか出来るものでは無い。
矛盾があってそれを自ら認めているからこそサミレフ皆から慕われているのだ。
石と粘土で作り上げられたその隠れ家にはサミレフの他に少年が四人いる。
金髪はサミレフ一人で二人が黒髪、もう一人は茶色の髪の少年でそれぞれエラーや
ガリヤのように頭に布を巻いていた。
そのうちの一人は終始のぞき窓から外を警戒していて少しぴりぴりとした空気を醸し出している。
賑やかな内装の部屋とは裏腹に窓が少なく日の光が差し込まない所為かどこか
寂しい雰囲気が漂っていた。

「こいつから大体聞いたけどな、お前ら無謀すぎだぞ。中央の魔女の怖さを全然わかってない」

「わかってるよ、アガタがビビッてたくらいだもん」

タクトが来る前にキリが自分の身分だけ隠して弟子として、旅をしていること、
その目的を話したらしいがその内容が気に入らないのと、
そもそもキリとの温度差が激しいようで一言返す度にサミレフはぷりぷりした。

「もんとか言うな。全く都会のやつは…」

「なぁあの魔女のパレード?いつ終わんの?宿予約してきたんだけど」

「あ、ベッドで寝たい…」

「よぉし、お前ら二人とも覚悟出来てんだろーな、その楽天思考たたき直して…」

最後まで言い終える前に外の様子をうかがっていた少年が今までに無いくらいの緊張感を持って言葉を遮った。
静かに、と促されその場にいた全員が口を閉ざす。
衣擦れの音も漏らすまいとゆっくり移動してサミレフがのぞき窓まで移動すると
タクトとキリもそのあとを同じようについて行った。
外には気配は確かにないが、獣の影が映った。
薄暗いはずなのに影があるその矛盾に気づいてキリが息を飲む。
確かに獣の息づかいは聞こえたがそれは犬や狼の類いではなくて炎に包まれた精霊であった。
ハッハと荒い息づかいをさせ、何かを探しているようであたりをうろうろしている。
じわじわと近づいてくる精霊は隠れ家の前で一度止まりしきりに匂いを嗅いでいるのを
目と鼻の先で見ていたキリは鋭く磨き上げられた剣を全身に突きつけられたような感覚に襲われた。
とにかく早くどこかへ行って欲しいと心の中で必死に祈っていると精霊は何もないと判断して地面を蹴って走り去っていく。
姿が見えなくなると全員が言葉では言い表せない緊張感に大きく息を吐いて
こわばった体をゆっくりほぐす。
冷や汗をかいていたのはキリとタクトとサミレフだけだった。

「なん…いまの…」

「ケルベロス。魔女の使いだよ。こえーのなんのって」

キリは喉がからからでかすれた声しか出なかったがサミレフは慣れているのか
冷や汗をぬぐいつつもいつもの調子で答える。

「俺もちょっとだけなら風の魔法使えるんだ。だから目くらましくらいならできる。
まぁ今回はお前の傍だから成功率あがったんだけど」

属性同じだろ?と尋ねられたキリはこくりと頷いた。

「ただお前が火属性だって知らなかったから今ちょっと焦ったぞ」

「俺も焦ったけど、俺のは微々たるもんだし。キリには全然足元にも及ばないくらいだから」

タクトは皮肉もなく言い切った。
サミレフもからかいはせずにそうだな、と答える。

「魔女にばれないように街を出るのしんどそうだけどな〜」

「ユルドニオに行けばとりあえず魔女も手を出してこないだろ」

緊張が解けた少年達はそれぞれにくつろぎだした。
いそいそと飲み物を持って来た少年は一緒に地図も手にしていて、
それを絨毯の敷かれた床に広げる。

「あ、俺ナウラね。で、今いるのがコレな、んでそのお隣がユルドニオ。
そこから暫く行ったところがコーツァナ。目と鼻の先ではあるけど、
難関が今のところ魔女だな」

古ぼけた地図の今いる街のムクタの文字を指さし、滑るようにユルドニオへ移動させて
最後にコーツァナをトントンと叩く。
ムクタとユルドニオの距離は近く徒歩で半日もあればたどり着くが
キリはなるべくなら急いでコーツァナへ向かいたかった。
ガリヤが教えてくれたノグの状況が心配なのだ。
体力がまだ十分戻っていない所為かガリヤの住む地下に落ちてから、精霊とも会えていない。
おかげで情報が全く届かなくて余計やきもきしていた。


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