タクトはその名を聞くと踵を返して宿を探し回った。
キリはちょっとだけその魔女の行列を見ていたかったがタクトが頑なに許可しなかった。
記憶されているかどうかわからないがそれでも二人は確かに魔女と会っている。
同じ場所にいるだけで鳥肌が立ったのにわざわざそんなところでまごまごしている
理由なんてこれっぽっちもない。
幸運な事に一件目に足を入れた店は空室がいくつかあってタクトはてきぱきと宿泊の手続きを整えた。
フロントの女が部屋を案内すると言ったところで初めてタクトは後ろにいたはずのキリを振り返った。
が、そのキリがどこにもいなかった。
ぎょっとしてタクトは思わず女に尋ねたが女は不思議な顔をして
「お客様おひとりしかおりませんでしたが?」と答えた。
つまり宿に入る時にはキリがいなかった事になる。
部屋の案内を断って鍵だけを受け取りタクトは矢のごとく飛び出した。
辺りを見渡すと観光客らしき人々がどこから沸いてくるのかだんたんと増えている。
嫌な気分になりながらもタクトはあちこち走り回った。
これではエラーの言う通りではないか。
こんなに簡単にキリを見失うと思っていなかったタクトはあの地下道で感じた嫌な
感覚を思い出す。
とにかく金髪金髪とあの馬鹿みたいに派手な頭を探していると
ようやく見つけてタクトは乱暴にその肩を掴んだ。

「キリ!」

「うぉ!?なんだ!」

「!?!?!エラー??」

振り返った人物はキリとおんなじ派手な金髪のエラーだった。
エラーだったが肌の色が違うし、なによりエラーよりも骨格がしっかりしている。
つまり男だった。
男の体にエラーの顔をくっつけたようで少し気持ちが悪かった。

「あっお前か」

「??エラー?いや…ええと…人違い?」

「落ち着け、少年。まあちょっとこっちに来い」

エラーそっくりの少年はタクトの手を掴んでにっこり微笑むとぐいぐい人気の無い細い
路地に連れ込む。
なんで路地に連れこむんだちょっと怖いしやめてくれ俺はそっちの趣味はないとか
よく分からない事をぐるぐる考えていたら木箱の前で立ち止まり、
タクトをその前に促す。
木箱のふたを開いたかと思うと後ろに素早く回り込んでタクトの背中を蹴飛ばした。
タクトは何が何だかわからないまま木箱の中に放り込まれる。
2、3回、転げ回って壁に頭をぶつけてようやく止まると親友のすっとんきょうな声が響いた。

「タクト!サミレフ!タクトの時は優しくしろって言ったろ!」

「いやあ悪い悪い。とっても間抜けヅラしてたもんだから、つい」

「だいたいタクトもタクトだよ。なんで知らない人にホイホイついてくるんだ」

「おまっ、なに、…ええ!?」

落ち着け、と宥めたのはエラーそっくりの少年だった。
少年は部屋にいた他の少年達に木箱から辺りを見渡させる。
路地には人っこ一人おらず殆どが魔女が通るであろう場所に押し寄せているはずだ。

「俺はエラーの双子の兄でサミレフ。弟が色々…世話した…のか?」

「ああ、まあ世話して貰ったかも…?…ん?弟???」

「エラー、女の子の格好していたけど、男らしいぞ」

キリがなんだかげっそりしている。
いや、確かに華奢で格好は女の子のものだったが、確かに。

「…胸なかったな」

「それ、エラーの前では言うなよ。気にしてんだから。魔術で胸作ろうとしてるくらいだ」

「いやいやいや。えええ?なんで!って言うか色々わからん!状況が!」

タクトが混乱するのも無理は無かった。
だろうな、と頷いたのはサミレフで彼は適当な場所にどかりと座りあぐらをかいて
腕を組む。
なんだかよく見れば盗賊みたいな出で立ちでまるでそのお頭だ。

「早い話がこうだ。お前ら魔女に見つかるな。精霊から情報が漏れる事は無い。
こいつが風の精霊の王を使っている限りはな。風の精霊王がお前らを護ってくれる。
魔女はこっそりお前らを探してるらしくてな、金髪と黒髪の少年二人って言うのが目印らしい。
それで俺達がお前らをここに引っ張り込んだ。俺も金髪だし、
こいつらの何人かが黒髪だから紛れるだろう?んで、助ける理由はこいつが
アガタ様の弟子だからだ」

「アガタの?なんで」

「っか〜!信じられねぇ!こいつもか!!お前らアガタ様の事知ってるんだろ!あんなすごい人いねぇぞ!?」

「はあ…?」

「俺達、アガタ様に助けられた事があるんだよ。特にこいつはアガタ様に心酔しちゃって」


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