本当にこの道で合っているのかとタクトが何回も聞き直したぐらい
エラーは右へ曲がったり左へ曲がったり、かと思えばずっとまっすぐ進んだりを
繰り返した。
その度にそんなに迷いたいなら勝手に迷えと一蹴されたので
二人はうっと押し黙って一回り小さな少女の背中をついて行った。
やがて外からの光が差しているのを見つけると出口だ出口だと
お祭り騒ぎではしゃいでいたら五月蠅いとこれまた一蹴された。
二人はまた同じように押し黙った。

「太陽!素晴らしい!」

日の元に立つと柔らかい暖かさが体を包むのが分かる。
これが太陽の恵みというヤツなのかと感激した。
ちょっと前までうっとうしいと思っていた刺すような暑さが今はとても
愛おしく感じる。

「アレ、街?」

「そうだな。私はここまでだ」

「ありがとうエラー。ガリヤさんにもよろしくって言っておいて」

「気をつけて帰れよ」

「お前もなポンコツ」

「ポンコツじゃねーよ!」

「そう思ってるならお前もう少し強くなったらどうだ。剣の腕はそこそこみたいだけどな。所詮その程度だぞ」

「タクトは強いよ。地図読めるし。あといいやつだし」

「…お前アガタ様と一緒に山に住んでた割に頭の緩いやつだな。なんでそんなに毒気ないんだ。もう少し何とかしろ」

「えっはい…」

最後の最後までエラーは冷めた表情で淡々と二人を諭し……諭していた。
決して馬鹿にしていたのだと思いたくない。
頼むから諭していてくれたのだと、誰かに言って欲しいくらい
エラーはバッサバッサ二人の言動に刃を入れていた。
同じ四大魔術師の弟子同士なのに力云々では無く、補佐としての力量が
こんなに違うとは思わなかった。
ちょっぴり恥ずかしかった。

別れを惜しみもしないであっさり戻るエラーに寂しさを感じつつも二人は
街へ向かった。
地下道を歩いた距離よりもうんと短い時間でたどり着いたので
二人はいそいそとまずはその日の宿探しを決行した。
南の魔術師の部屋で幾分か休憩を取ったとは言え十分ではないので
正直な話、柔らかいベッドで眠りたかったのだ。
旅費もまだ十分余裕があると見て今日はタクトもけちけちしない。
地下道でコーツァナが攻めてくる話をしたが、最短の最短距離でコーツァナからノグまで行くとしてもまだもう少し時間があるはずだ。
仮に子供二人が大急ぎで戻ったところで大した力にもなれないのは
二人がよくわかっていたことだ。
それならばコーツァナまで距離の近い二人がさっさとアガタを助けてしまった方が
戦力として考えるのならば勝機が上がる。

「今回が柔らかいベッドで寝る最後の日だと思っとけよ。しっかし…うーん。
俺ももう少し戦術とか戦法とか勉強しておけばよかったな…」

「なんで」

心の底からどうしてそんな事を思うのかわからなかったキリは首を傾げた。
タクトは少しげんなりして悔しいけれどエラーが呆れる気持ちがわかった。

「…それ皇子が吐く台詞じゃねーな」

「すいません」

なんだか最近謝りっぱなしの気がする。

「勉強しておけば少なからずコーツァナがどう言うルートで行くのかとかさ、
予測できるだろ。それだけでも全然違う。もしかしたら撹乱することだってできるんだし」

「そうなんだ」

「お前もう皇子ヤメロ」

ぴしゃりと言われてむくれていると一際賑やかな大きい道路を見つけた。
タクトがしわしわになった地図を広げて指さしたところは街の中心となる道で
隣接する国との道と繋がっているようだ。
人だかりに近づいて必死に前を覗こうとしている男に何があるのかと声を掛けたら男はわからないと答えた。
タクトはそうですかと頷くとあっさり別の人にも同じように尋ねた。
そうして同じやりとりを何度か繰りかえす事になった。
誰一人、この街の住人ではなくて何がこれから起こるのか分かっていなかったのだ。

「じゃあなんでこんな人だかりに…」

「タクト、店の人に聞いたらいいんじゃないか」

後ろをちょこちょこついてきていたキリにそうだなと頷いて振り向いた時だった。
沿道に並ぶ店の殆どが店じまいを始めているのだ。
何かに怯えるように大急ぎで走り回る彼らこそがここの住人だろうが
何をそんなに慌てているのだろうか。

「あの、これから何か始まるんですか?」

「この道をコーツァナの魔女が通るんだ。コーツァナほどの商業地じゃないけどな。
なんだか好みの店があるとかでたまにこの街にくる」

店の店主は片付けの手を休めないままだったがそれでも鬱陶しがらずに
きちんと答えてくれた。
それがどこか不穏な空気を察した二人に対しての男の優しさのようにも思える。

「それで店じまいすんの?集客に便乗して普通客とか呼び込んだりしないんですか?」

「…魔女の機嫌を損ねるよりはましだからな」

なにかすごみのある低い声で店の店主が唸る。
キリは重い口を開いた。

「コーツァナの魔女って、中央の魔女の事ですか?」

「そうだ。魔女、アルマンディンだ」







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