「真本は鍵がないと解けない。中からは絶対に開かない。だから誰かが開けて、
中央の魔女を出した人間がいるようね」

「でも真本は普通の人は入れない場所に…」

「じゃあ普通じゃ無い人が入ったのね。地位のある人間か、或いはとっても強い魔力を
持った人間」

前者はなんとなくありそうな可能性だが後者はそんなのいるわけがない。
アガタを出し抜いてそれをなしえるなんて絶対に考えられない。

「まあ、ノグにいないお前に言っても仕方ないわねぇ。はい。出来たわよ。
急ぎなさい。地上までエラー
に案内させるから」

「あの」

「ん?」

「どうしてユルドニオって聞いたんですか」

「白い肌の碧眼金髪はユルドニオに多い、から」

至極当たり前の、差し障りのないと言った情報だった。
キリは納得いかない様子だったがガリアはそんなこと気にもしない。
煙草の煙をキリの顔に吹きかけると甘ったるい匂いがして、
煙さに咳き込んだ。

「まったく可愛い子だね。アガタには勿体ないわ。ねえ私の弟子にならない?」

「なりません」

「可愛いねぇ。本当に綺麗。疑う事も知らなくて」

「それくらい知ってます」

「私に言わせればまだまだよ。今だってそうじゃないの。私が偽物だったらどうするの」

「ありえないです」

「どうして?」

ガリヤは含んだ笑みを浮かべる。
キリは溜息をついた。

「分かってる癖に。さっきから観葉植物が貴女が嘘つきじゃないって騒いでますよ」

「あら。聞こえてたの。ああ、アガタの弟子だものね。それくらいはできるかもね」

「本、有り難うございました。行きます」

「どういたしまして。ほんとにアガタの弟子にしておくの勿体ないわね。あのクソ魔女には全然敵わないけども、何かあったら呼びなさい。出来る範囲で助けてあげるから」

クソ魔女とは多分…いや恐らく中央の魔女の事だろう。
一通り四大魔術師に面会したキリは初めてあの魔女をこんな風に呼ぶ人に会った気がする。
アガタからはほとんど話を聞けていないのでどう呼ぶのかわからなかったが多分
アガタもクソ魔女なんて呼ばないだろう。
同性だとここまではっきりと嫌悪感をしめすものなのだろうか。
なんとなくそこは聞いてはいけない不可侵の領域のような気がしてキリは大人しく首を縦に動かすだけにした。
話が終わったのを見計らっていたのかエラーがひょっこり現れて
真新しくきちんとたたまれた服を差し出した。
キリの着ているものを脱がせて差し出したものを着るようにいくつか
ある穴へ促すとまたどこかへ行ってしまう。
押し込められた穴の前には木製の古い扉がついていて
扉を押すとさっきまでいた空間よりもせまい部屋になっている。
天井は円く洞窟の形をしていて絨毯や家具は女性が使用しているからか
どことなく可愛らしい。
辺りを見渡してから受け取った服を広げたら驚いたことに
自分が今着ている服と同じデザインだった。
その新しい服と今着ている服を見比べてこんなにもくたびれるものなのかと
キリは人ごとのように感心していそいそと着替える。
そう言えばタクトの姿をこれっぽっちも見ていないがどこにいるのだろう。
冷静に考えれば、いや考えなくても二人はタクトの話を一つもしていない。
キリも勝手にタクトも一緒に連れてきて貰っているのだと思い込んでいたので
気にも留めていなかった。
さっと血の気が引いてきて心臓がばくばく五月蠅く鳴るのを抑えて
大慌てで服を着替える。
律儀に今まで着ていた汚い服を抱えて部屋を出るとムスッとしたタクトが腕組みをして
キリと同じようにアイロンをかけられた真新しい服に着替えて立っていた。

「話、終わったのか」

「うん」

「なんにもなかったな?」

「?うん。タクトもケガしてないのか?あの砂漠の上から落ちてたし」

「ない」

「よかった」

寝起きが悪いのをまだ引きずっているのかどことなくタクトの機嫌が悪い。
しかし尋ねればちゃんと答えてくれるのでキリはまあいつもの事だと特に気にしなかったが急にタクトは何かを爆発させたように怒鳴った。

「よくねーよ!!なにちょろちょろ歩き回ってんだよ!」

びっくりしたキリは瞬時に何か言い訳しなければと必至で探した。
いくら寝起きが悪いとは言えこんなにタクトが怒るのは珍しい。
おろおろしているとエラーがタクトの背中からひょっこり顔をだして呆れたように
溜息を吐いた。

「随分勝手なやつだなお前。お前が護るべき主君を見失った癖に。もともと
主君てのは勝手に歩き回るものだろ?それについて行くのが従者だ」

「う、うるさいっ」

タクトは図星を指されて狼狽えている。
寝起きが悪いわけではなく、理由がわかったので少しほっとした。

「お前が黒い霧に紛れて危なく崖から落ちるところだったろ?私が助けたものだから
気に入らないんだと」

「黒い霧?」

「真っ暗闇を歩いたんだろ。自分の姿も見えないくらいの。
アレはあの辺りのまあ呪いみたいなものでよく人を惑わして崖の底へ落とすんだ」

エラーの言う人を惑わすと言うのが少しだけ分かる気がした。
あの真っ暗闇にいた時、音も聞こえないしどこを歩いているのかもわからなかった上に
一緒にいたタクトの存在や自分がどこへ向かおうとしているのかが不思議と
頭の中から消えていて文字通り空っぽだった。
ただ、その先に行かなければならないんだと言う一つの言葉が浮かんできて
キリは歩いていただけだったのだ。
よく考えるととてもゾッとした。

「タクトは平気だったのか?」

「寝ぼすけには効かないんだよ」

「だから寝てねーよ!」

「タクトが平気ならよかったな。エラー。上に行く道まで案内してくれる?」

ぎゃあぎゃあと騒ぐタクトが珍しかったのでもう少し眺めていたかったが
キリはエラーに道案内を乞うとエラーはタクトの相手をやめてこくりと頷いた。















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