エラーと呼ばれていた少女は師匠を呼びつける役目を終えると
さっさと何処かへ行ってしまった。
二人ぽつりと残された部屋の床には細かい刺繍が施された大きな赤い絨毯が引いてある。

「さて。東の魔術師の弟子よ。お前は何を望むの?」

「えっ」

「私が最後の南の魔術師よ。直接本へ知識を書き込めばいいのかしら?」

南の魔術師は女性らしい艶のある声でフォレガータとはまた違った大人の色気があった。
しなやかな体つきに似合わないはずの煙管も彼女が持つと
彼女を引き立たせる優雅な装飾品へと変わっている。
キリは幾分気圧されて上手く言葉が出て来なかった。

「や、ちょっと、あの…」

「ちんたら一から十まで説明してもいいけれど、急いだ方が良いのはお前だと思うよ?」

「…急いだ方が良い?」

「コーツァナがノグに宣戦布告をしたそうよ。悠長にしていたら帰る頃には
焼け野原になっているかもねぇ?」

「は!?」

ガリヤは世間話でもするかのように言った。
わけがわからない。
どうしてコーツァナがノグに攻めてくる必要があるのか。
いや理由なんてどうでもいい、戦争が起こる事実の方が大切だ。
ノグには母親と幼い弟と妹がいる、一緒にきた親友の家族だっている。
その他にだって。

「綺麗な顔だねえ?でもノグの顔じゃない」

「…俺は拾い子です」

「ユルドニオからの?」

ガリアは触れるか触れないかのところでキリの顎をなぞるように指を滑らせる。
探るような視線が居心地悪くてキリはモゴモゴと答えた。

「さあ、わかりません。アガタの、師匠の家の近くに捨てられていたそうなので」

「わからないと言えと教えられた?」

「?本当にわからないからわからないと言ってるだけですけど」

「ふうん。じゃあそういうことにしておこう。とにかく急いだ方がいいでしょう?」

ガリヤは煙草を一つ吸い込むとゆっくりと息を吐いてキリに本を見せろと促した。
梅香から譲り受けた本を鞄から取り出すとガリヤは本の表紙に手をかざし、
それからさするように手を動かして押し黙ったまま本を睨んでいる。
ふとキリは今の今までずっと忘れていた事を思い出す。
忘れていたと言うか考える暇が無かったと言うか考えるのを放棄していたと言うべきか。

「…中央の魔女って、本に封印されてたんですよね?」

「そうねえ」

「どうして封印が解けたんだろう」

「…………。もしかしてその原因も追及しないままにここに来たの?」

「う、はい…」

なんだか非難されているような気がしてキリは言葉に詰まりつつも頷いた。
呆れたような溜息が聞こえていよいよいたたまれなくなってくる。
多分、それは母親のフォレガータが動いているとは思うが
ノグが大変な時ならばそれもきっと中断されてしまうだろう。
今すぐノグに帰るには遠すぎるし時間もかかる。
このままアガタを助けに行ってアガタの魔術で帰る方がうんと早い。
よく考えたらいろいろな事を適当にして飛び出して気がしてキリは急に不安になった。
中央の魔女の懐へ飛び込むよりも、どうしてこんな状況になったのかを
知ることの方がなんだかキリにとって怖いと感じるのだった。


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